私たちの目は、遠くが見える(矯正)状態であっても、「調節」を働かせることで、中間の距離のものも近くのものも、ピントを合わせてみることが可能です。調節は目と脳の連携プレーの賜物であり、目においては、「水晶体」という目の中のレンズが厚くなったり薄くなったりしてピントが合う距離を変えているのですが、この水晶体は年齢とともに少しずつ硬くなるため、少しずつ厚くなりにくくなっていきます。
老眼鏡・ 遠近両用メガネ・ 遠近両用ソフトコンタクトレンズ
違い・ 種類とは?
作成日:2022/12/14 更新日:2024/11/13
老眼とは
その結果として、調節する能力は10代から低下の一途をたどります。その結果として、「遠くが見える(矯正)状態のときに見ることができる最も近い点:近点」はだんだん遠ざかっていきます。40代になり、この近点が30~40cmくらいになると、日常生活のなかで「あれ?近くが見えにくい?」と感じるようになります。調節力が低下し近点が遠ざかっていく現象自体10代のころから存在しているのですが、日常生活の中で不便を感じ始めることで、その現象は「老眼」と呼ばれるようになるのです。
老眼を矯正できるものには、身近なものでは老眼鏡、遠近両用メガネ、遠近両用コンタクトレンズが挙げられます。これらはどのように違うのでしょうか。
老眼鏡
老眼鏡は、近くを見るのに適した度数だけをもつメガネです。老眼鏡をかけると、よく見える範囲が手元に移動するので、手元がよく見えるようになります。見たいものの距離に応じた細かな度数設定が可能であり、見え方の質が高いことが老眼鏡の長所です。
しかし、老眼鏡をかけたままでは遠くが見えにくいため、見たいものの距離に応じて老眼鏡をかけたり外したりしなくてはいけません。また、外出時に「家にわすれてくると近くが見えない」という状況に陥ることもあります。老眼鏡のこういった弱点を持たないのが遠近両用メガネや遠近両用コンタクトレンズです。
遠近両用とは
「遠近両用」とは、その名の通り、「遠くから近くまで」見えるということを意味しています。一枚のレンズに遠くを見るための度数(遠用度数)・ 近くを見るための度数(近用度数)など複数の度数が含まれているので、見たいものの距離に応じてかけたり外したりする必要がありません。眼鏡レンズでもコンタクトレンズでも「遠近両用の」レンズが製造されています。遠くは裸眼でよく見える方であっても、遠くの度数を入れないレンズにすることで、遠近両用のメガネやコンタクトレンズを使用することができます。
遠近両用メガネ
遠近両用メガネは、レンズの上の方に遠用度数、下のほうに近用度数が入っており、その間を中間の距離のものを見るための度数がつないでいる構造になっています。コンタクトレンズとは違い、レンズはフレームに固定されて目の前にありますので、視線を移動させることにより、見たいものの距離に応じて、レンズの中にある度数を使い分けています。
このような見え方を「交代視(こうたいし)」といいます。視線移動に慣れる必要があり、近用度数を強くすると視野の周辺にゆがんで見える部分が生じやすくなりますが、見えているところの見え方の質は一般的に優れています。
遠近両用コンタクトレンズの種類
遠近両用コンタクトレンズも遠近両用メガネと同様に、一枚のレンズに複数の度数を持っています。そして、近視や遠視を矯正するコンタクトレンズと同様に、ハードコンタクトレンズもソフトコンタクトレンズもあります。ハードコンタクトレンズには「交代視型」といわれるものがあります。見たいものの距離に応じて視線を変えることでレンズにある度数を使い分けるという、遠近両用メガネと同じ使い方をするものです。ハードコンタクトレンズは眼鏡レンズよりもはるかに小さいのですが硬いので、レンズを下まぶたの上にのせて下目づかいをすることでレンズの周辺にある近用度数を使うことができるのです。しかし、柔らかいソフトコンタクトレンズでは視線を移動させても目とレンズの位置関係が変わりませんので、「交代視型」のものは存在せず、「同時視」と呼ばれる見え方で遠くから近くまでを見えるようにしています。
同時視とは、どこを見ている時も、遠用度数から近用度数まで、そのレンズがもつ全ての度数を使う見え方になっています。ハードコンタクトレンズでも同時視型のものがあります。
遠近両用コンタクトレンズでは、一枚のレンズが持つ度数の数にも多様性があります。
- 2重焦点(バイフォーカル)
一枚のレンズに、遠用・ 近用の2種類の度数があります。 - 3重焦点(トリフォーカル)
一枚のレンズに、遠用・ 中間距離用・ 近用の3種類の度数があります。
- 多焦点(マルチフォーカル)
一枚のレンズに、遠用・ 近用の2種類の度数と、その2つの度数の間を滑らかにつなぐ複数の度数があります。
他にも、レンズの中央に遠用度数があるもの・ 近用度数があるものなど、レンズ内の度数の配置には製品によって多様性があります。
この遠用度数と近用度数の差を「加入度数」といいます。加入度数が高いほど、手元を見る時のサポートが強いということを意味しています。製品によりますが、加入度数は製品により1種類しかないものから4種類(4段階)あるものまで、こちらも様々です。
こういった多様性は、見え方の多様性につながります。自分の求める見え方を実現してくれる製品を、眼科医に相談しながら探しましょう。
同じ「遠近両用」だけど違う 遠近両用メガネと遠近両用ソフトコンタクトレンズ
同じ「遠近両用」がつく遠近両用メガネと遠近両用ソフトコンタクトレンズですが、見える仕組みは全く異なります。遠近両用メガネでは「交代視」、つまり、視線移動によってレンズの中にある度数を使い分けることで、遠くから近くまで見えるようになります。一方、柔らかいソフトコンタクトレンズは、視線を動かしても目とレンズが一緒に動いてしまうため、この、「交代視」はできません。遠近両用ソフトコンタクトレンズでは、「同時視」により、遠くから近くまで見えるようにしています。
同時視とは、度数を使い分けるのではなく、常にすべての度数を使いながら、脳が最もピントが合っている見え方だけを認識してくれる、という見え方です。
これだけではよくわからないですね。遠近両用ソフトコンタクトレンズを装用して遠くの景色、特に塔(以下のイメージ図)に注目してみてみましょう。
遠用度数を通してみた塔はピントが合っています。しかし同時視なので、遠くを見ているときも、近用度数やその間を見るための度数もすべてを通してみることになります。これらのものは度数があっていませんのでピンボケの塔になります。つまり、先ほどのくっきりの塔にピンボケの塔が重なってしまうのです。これで見えるのでしょうか?
ここで活躍するのが脳です。この、ピンボケの塔の中にくっきりの塔がある情報を受け取った脳が、ピンボケの塔は採用せずくっきりの塔だけを「視覚」として認識してくれるのです。人間の脳はすごいですね。脳が行うこの処理のおかげで同時視が可能になり、多くの遠近両用ソフトコンタクトレンズが流通しているのです。
視線移動が必要なく、広い自然な視界が得られるのが長所ですが、近用度数が強くなるにつれてくっきりの塔に乗るピンボケの程度が強くなるのが同時視の短所です 。
ちなみに、白内障手術で用いられる多焦点眼内レンズも、この「同時視」でみています。
老眼鏡と遠近両用コンタクトレンズは併用できる?
遠近両用コンタクトレンズをしていても見えにくい、小さな文字を見たいときは、遠近両用コンタクトレンズを装用した状態で老眼鏡をかけることもできます。これは、交代視型のものでも、同時視型のものでも同様です。また、遠近両用コンタクトレンズは目に異常があるときは装用できないこともあります。遠近両用コンタクトレンズが装用できないときのためにも、メガネはいずれにしても併用するようにしましょう。
まとめ
老眼を矯正するメガネやコンタクトレンズには、それぞれメリット・ デメリットがあります。シーンによって使い分け、それぞれの長所を活かすのもひとつの方法です。ただ、どの矯正方法であれ、目の状態により向き不向きがあります。まずは、眼科医に相談しましょう。