近視とは、目の中に入った光が1つに集まるところ(焦点)が、網膜より手前になっている状態のことです。網膜より手前で焦点が合ってしまう原因はいくつかありますが、そのうちの1つが、角膜(黒目)から網膜までの距離である「眼軸長(がんじくちょう)」が伸びることで発生する「軸性近視」と呼ばれるものです。近視は世界的にも増加傾向で、2050年までに世界人口の半数が近視になると推定されており2)、早急な対応が望まれます。
教室内は裸眼で黒板が見えない子どもばかり!?深刻化する近視問題
作成日:2024/11/13 更新日:2024/11/13
なぜ近視になってしまうのか
近視の進行を抑制するための治療法
子どもの近視の増加は世界的な問題となっており、アジア人の子どもは近視の有病率が高いとされています3)。また同時に、強度近視の人も増えてきています。近視に伴う問題は単に裸眼で遠くが見えない、ということだけにとどまりません。近視が危険因子となる目の病気が多くあり、その中には失明するような病気もあるのです。このような背景から、近視の進行を予防したり抑制したりするために、さまざまな方法が検討されています。以下に、主な治療法についてご紹介します。
低濃度アトロピン点眼による治療法4)
世界的に最も広く行われている治療法で、0.01%の低濃度のアトロピンを、1日1回夜寝る前に点眼します。手間はそれほどかかりませんが、人によって効果が異なり、あまり反応しない子どももいます。現在、世界各国で、さらなる研究が行われており、より濃度の高い0.025%や0.05%点眼の有効性や安全性も検討されています。
オルソケラトロジーによる治療法4),5)
オルソケラトロジーは、角膜の形状よりもカーブのゆるいハードコンタクトレンズを睡眠中に装用し、一時的に角膜の形状を平らにして焦点を後方にずらすことで、眼鏡やコンタクトレンズなしで、良好な裸眼視力を得ようとする屈折矯正法です。レンズを外しても一定時間はその形状が続くので、日中は裸眼で過ごすことが可能になります。
近視の矯正だけでなく、眼軸の延長が抑制されることが多くの研究により示されており、比較的信頼性の高い治療法と考えられます。欠点としては、自由診療のため初期に費用がかさむことと、ハードコンタクトレンズの装用に抵抗がある場合には、装用が困難なことなどが挙げられます。
多焦点ソフトコンタクトレンズによる治療法4)
遠用と近用などの複数の度数をもつソフトコンタクトレンズを装用することで、近視進行の抑制効果が得られるとされています。海外では、各社がさまざまなデザインの多焦点ソフトコンタクトレンズを子どもの近視進行抑制のために開発しており、オルソケラトロジーに匹敵する有効性が示され始めています。オルソケラトロジーより刺激が少ないため装用しやすいことや、衛生面での管理が比較的容易なことから、国によっては、子どもの近視進行抑制のために使用される頻度は、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーをしのいでいます。
家庭でできる近視予防法
家庭でできる近視予防法としては、次のようなものが挙げられます。
- スマートフォン、ゲーム、パソコン操作や、読書などで近くを見続けることは避け、適度に休憩したり、目に近づけ過ぎたりしないように注意しましょう。
- テレビは明るい部屋(環境)で、適切な距離をとって見るようにしましょう。
- 室内に閉じこもらず、できるだけ屋外での活動時間を増やすようにしましょう。
まとめ
近視は多くの目の病気の危険因子として認定されており、近年、近視の進行抑制治療法が検討されています。近視の進行を放置することにメリットはありませんし、子どもの近視は、早期に適切な治療を行えば、進行を抑えることができます。学校での視力検査で指摘を受けたり、家庭の中でも少し離れた物を見にくそうにしているなど、気になることがあった場合には、早急に眼科を受診するようにしましょう。
<参考資料>
1) 文部科学省:学校保健統計調査-令和4年度(確定値)の結果の概要
https://www.mext.go.jp/content/20231115-mxt_chousa01-000031879_1a.pdf
2) Holden BA, et al.:Ophthalmology 123(5):1036-1042, 2016
https://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(16)00025-7/fulltext
3) Kleinstein RN, et al.:Arch Ophthalmol 121(8):1141-1147, 2003
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12912692/
4) 日本近視学会:近視の進行抑制治療
https://www.myopiasociety.jp/general/care/flow.html
5) 医療情報科学研究所 編:「病気がみえる vol.12 眼科」 第1版 メディックメディア, 2019