目の構造と機能は、しばしばカメラに例えられます。カメラのレンズに相当するのが、角膜(黒目)と水晶体、フィルムが網膜です。外から入ってきた光は、角膜と水晶体で曲げられて、一点に集められます(焦点)。焦点が網膜上にあると、「良く見える」状態になります。
遠視はどんな見え方になるの? 子どもの遠視にも注意を
作成日:2022/12/13 更新日:2024/11/13
遠視は遠くも近くもよく見えない状態
水晶体が厚みを増やして、屈折力(光を曲げる力)を強くすると、この焦点は前方(角膜側)へ移動します。これを「調節」と呼びます。一般に、「ピント合わせをする」とは、調節を意味しています。
遠くのものを見たときに、この「調節」をすることなく網膜上に焦点が結ばれる状態のことを「正視」というのに対し、屈折力が強すぎたり弱すぎたりして、焦点が網膜からズレてしまう状態を「屈折異常」といいます。遠視とは、屈折異常のひとつで、調節をしていない状態では網膜より後ろで焦点があってしまう状態のことをいいます。軽度の場合は、目の調節が働き、焦点が網膜上へ移動し、よく見える状態をつくることができます。
「人より早く老眼になったと感じたら遠視だった」という場合も
手元が見えにくいというと、老眼?と思う人もいるかもしれません。ところが、まだ30代なのに手元がみえにくいとしたら、それは遠視の影響かもしれません。
調節力は10代から減退の一途をたどります。遠視がない方では、日常生活で不便を感じ始めるのが40代ですが、遠視の方は近くを見るために必要な調節量が遠視のない方に比べて大きいので、より早い時期に近くのものの見えにくさに気づくのです。
なぜ軽い遠視は見つかりにくいのか
軽度の遠視の場合には、職場や学校などでの視力検査では遠視であると分からないことがあります。それは、目の調節力が十分あれば、近くも遠くも調節をすることで見えてしまうからです。「自分は目がいい」「眼鏡やコンタクトレンズとは縁がない」と思っている方の中に一定数、軽度の遠視の方がいらっしゃるということです。
子どもの遠視は周囲の大人が気を付けよう
生まれたばかりの赤ちゃんは、眼球のサイズが小さく、みんな遠視の状態です。身体の成長とともに目も発達し、それに伴って遠視の程度が弱くなっていきます。赤ちゃんは最初からなんでもよく見えているわけではなく、ものを見る、という視覚刺激をうけることで、視力が発達していきます。おおむね生後3年間で大きく発達しますが、その後も8歳ぐらいまで発達が続きます。この時期に十分な視覚刺激が受けられない状態が続くと、視覚の発達が妨げられ弱視になってしまうことがあります。
弱視とは、「視力の発達が障害されておきた低視力」と医学的に定義されていて、屈折異常をメガネなどで矯正しても視力が十分に得られない状態を指します。
強度の遠視があると、調節力の強い子供の目であっても「どこもよく見えない」という状態になってしまい、弱視の原因となります。早期に発見し、遠視をしっかり矯正することで「よく見える」状態を作ってあげることが、弱視の予防につながります。眼鏡で矯正することが多く、「こんな小さい子に眼鏡をかけさせるのはかわいそう」と思われるかもしれません。しかし、早いうちに視力を育ててあげないと、その子供は残りの一生を眼鏡をかけてもコンタクトレンズをつけても視力が出ない弱視とともに過ごすことになってしまいます。
片目を閉じて物を見る、目を細めてみるなど、のしぐさをすることもありますが、一見、なんの不便もないように見えることもあるため、3歳児検診などで眼科医の診断を受けるまで子どもの遠視に気がつかないこともあります。「ちゃんと見えていそう。目は大丈夫そう」と思っても、3歳児検診は必ず受けるようにしましょう。
中等度の遠視の場合には、「調節性内斜視」という種類の斜視の原因になることがあります。私たちは近くのものを見るとき調節を働かせますが、この時同時に「輻輳(ふくそう:より目のこと)」が起こります。中等度の遠視があると、近くのものを見る時に必要な調節量が多く、それに伴い過剰な輻輳が生じ、内斜視(目が鼻側に寄ってしまう)の原因となるのです。斜視は、両目でものをまとめてみる力(奥行の把握や、立体感など)の成長を妨げますし、弱視を招くこともありますので、治療が必要です。この場合も遠視をしっかり矯正することが治療の基本になります。個々の患児の状態に応じて追加の治療が検討されることもあります。
まとめ
遠視は、軽度の場合には自分でピント合わせをして「良く見える」状態を作れてしまうので、自覚していない人も多いです。ところが、常にピントを合わせている必要があるため、眼精疲労の原因になっていることがあります。また、「近くが見えにくい」という老眼のような症状が比較的若いうちに生じる場合もあります。眼科医の診察を受けて、コンタクトレンズなどで遠視の矯正をすると、眼精疲労が軽減したり近くのものの見え方が改善される場合もあります。
年齢などによって目の状態は変わることがあるので、眼科での定期検査をおすすめします。