ものが見える仕組み
虫眼鏡で光を集めて遊んだことはありますか?虫眼鏡に光を通すと、光が1点に集まります(焦点)。私たちの目も同様に、光を集めるレンズとしての役割を果たしています。目の中でこの働きを担っているのが角膜(黒目)と水晶体です。光はこの2カ所で集められながら目の奥へ進み、網膜に到達します。
作成日:2023/01/24 更新日:2024/11/13
虫眼鏡で光を集めて遊んだことはありますか?虫眼鏡に光を通すと、光が1点に集まります(焦点)。私たちの目も同様に、光を集めるレンズとしての役割を果たしています。目の中でこの働きを担っているのが角膜(黒目)と水晶体です。光はこの2カ所で集められながら目の奥へ進み、網膜に到達します。
網膜は、光を「神経が理解できるタイプの信号」に切り替えています。その信号が視神経を通って脳に届き、そこで初めて「見えている」という感覚(視覚)が誕生します。
「はっきり見える」「良く見える」という感覚が生まれるためには、光が1つの焦点に集まり、かつその焦点が網膜上にあることが必要です。
近視の目では、この焦点が網膜よりも前(角膜側)に作られてしまい、視界がピンぼけの写真のように見えます。
焦点が網膜より前に作られる背景として2つのタイプがあります。1つは、角膜や水晶体の、光を曲げる力(屈折力)が強すぎてしまうタイプです。もう1つは、目の奥行(眼軸:がんじく)が長すぎる、つまり網膜が奥まったところにあるタイプです。近視の多くは眼軸が長いことが原因で起こっています。
近視の原因は、今のところ完全にはわかっていませんが、遺伝因子(生まれつきの素質)と環境因子(生活環境や習慣など)の両方が複雑に関係していると考えられています。
例えば遺伝因子としては、両親ともに高度近視である場合には子どもが近視になるリスクが11倍にもなることが報告されています1)。また、環境因子としては、教育レベルが高いことや屋外で過ごす時間が少ないこと2)、長時間の近見(20cm未満)作業3)などが、近視の発生や進行と関連があると報告されています。
近視には、「単純近視」と「病的近視」の2種類があります。
単純近視とは、視機能障害を来たすことなく眼鏡やコンタクトレンズなどで矯正が可能な近視のことで、いわゆる「学童近視」(または「学校近視」)もここに含まれます。成長期には、身長が伸びるとともに眼球も大きくなるため、眼軸長が伸びて近視になりやすいと考えられています。このタイプの近視は、小学校低学年ごろから始まり、高学年になるほど増加する傾向にあります。
一方、病的近視とは、目の後ろにある網膜や視神経などに病的な変化を来たし、矯正しても視力が出ない状態のことで、経過によっては失明に至る場合もあります。近視の程度に関わらず、そのような病的な状態に陥ったものを「病的近視」と呼びます4)。
近視の発生・ 進行には遺伝因子と環境因子の両方が関与していると考えられています。遺伝因子は変えることができませんが、環境因子は変えることができます。では、生活環境や生活習慣をどのように変えれば近視を予防したり、近視の進行を抑制したりできるのでしょうか?
環境因子の中でも注目されているのが「屋外で過ごす時間」です。必ずしも活動的に体を動かさなくても、屋外で過ごすことが近視の発生だけではなく進行も抑制することが多く報告されています5)〜7)。1日2時間以上の「屋外で過ごす時間」を確保することで、両親が近視であるという遺伝的な背景があっても、近視発症のリスクが低下することも明らかになっています。
また、至近距離(20cm未満)でのデジタルデバイスの使用も近視の進行に関連すると報告されています8),9)。30cm以上離して見る、テレビやモニターに投影して視距離を遠くする、長時間見続けない、などの工夫をするようにしましょう。
近視は「裸眼で遠くが見えない」だけではありません。先にお話しした病的近視は、ともすると失明の可能性がありますし、高度近視はそれ自体が網膜剥離や緑内障、視覚障害のリスク因子であるという報告もあります10)。このことから、近視の進行を抑制する治療法が模索されています。ここではその一部をご紹介します。
オルソケラトロジーとは、就寝中に専用のハードコンタクトレンズを装用し、角膜の形状を変えて近視を矯正する方法です。オルソケラトロジーには眼軸長の伸びを抑える効果があり、近視の矯正だけでなく、進行抑制にも有用とされています。
アトロピンという成分が低濃度で含まれている目薬を使用すると、近視の進行が抑制されたという報告があり、国内外で進行予防法として評価が進んでいます。
多焦点コンタクトレンズの装用によって、眼軸長の伸びが抑えられたという報告があります11)。このような報告に基づき、現在は国内外で子どもの近視進行を抑えるための多焦点ソフトコンタクトレンズの臨床研究・ 開発が進行中です。また最近は、特殊な加工が施されたDIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments、デフォーカス組み込み型)レンズが登場しており、このレンズに関しても近視の進行を抑える効果が報告されています12)。
眼鏡やコンタクトレンズのほかに、オルソケラトロジーや屈折矯正手術などの方法もあります。屈折矯正手術には、目の中にレンズを入れる手術(有水晶体眼内レンズ手術)や、レーザーで角膜の形状を変えることで矯正する手術(レーシック)などがあります。手術は一般的に、目薬で目に麻酔をした後、短時間で終わります。それぞれの手術には適応はもちろんのこと、メリットやデメリット、リスクがあります。眼科医と十分に話し合った上で、検討してください。
近視はさまざまな病気の危険因子であり、近視そのものによっても視機能が障害されることがあります(病的近視)。近視進行抑制のための治療を行っている眼科もあります。また、近視が進みやすい環境因子はできるだけ排除するようにしましょう。
<参考資料>
1) Tang SM, et al.:Am J Ophthalmol 218:199-207, 2020
2) Morgan IG, et al.:Invest Ophthalmol Vis Sci 62(5):3, 2021
3) Wen L, et al.:Br J Ophthalmol 104(11):1542-1547, 2020
4) 日本近視学会:病的近視とは?
https://www.myopiasociety.jp/general/about/pathological.html
5) Xiong S, et al.:Acta Ophthalmol 95(6):551-566, 2017
6) Jones LA, et al.:Invest Ophthalmol Vis Sci 48(8):3524-3532, 2007
7) He X, et al.:Ophthalmology 129(11):1245-1254, 2022
8) Wen L, et al.:Br J Ophthalmol 104(11):1542-1547, 2020
9) Ma M, et.al.:Invest Ophthalmol Vis Sci 62(10):37, 2021
10) Haarman AEG, et al.:Invest Ophthalmol Vis Sci 61(4):49, 2020
11) 不二門 尚 他:視覚の科学 40(4):89-94, 2019
12) 祁 華 他:視覚の科学 40(4):99-103, 2019