色覚異常とは、特定の色を見分けることが難しい状態のことです。私たちは目から入ったものを最終的に脳で認識していますが、その最初の段階として、目にある「網膜(もうまく)」という場所で光を感じています。明るいところでは網膜の中にある錐体(すいたい)という細胞が主に光を感じています。錐体には、青・ 緑・ 赤の光(色)をそれぞれ主に感じる3種類の錐体があり、これらの細胞の働きのコンビネーションによって色覚が生まれています。
色覚検査
種類やセルフチェックについて
作成日:2023/1/17 更新日:2024/11/13
色覚異常とは
何らかの原因でこれら3種類の錐体の一部が欠損していたり、機能が低下したりすると、特定の色と色の判別が難しくなり、色覚異常と呼ばれる状態になります。かつては、錐体の働きの程度によって「色弱」や「色盲」という言葉が使われていましたが、現在はこれらの言葉にかわり、「色覚異常」が一般的に用いられています。日本では、色覚異常が男性の約20%、女性の約0.2%にみられます1)。
しかし、色覚異常も血液型のように人が持つ特性の1つと考えて良いのではないかという意見もあり、日本遺伝学会は、2017年9月から「色覚異常」ではなく「色覚多様性」という呼び方を提唱しています2)。
色覚異常の分類
色覚異常は、先天色覚異常と後天色覚異常の2つに大きく分けることができます。
- 先天色覚異常:遺伝的な原因により3種類の錐体のうちいずれかが生まれつき欠損している、あるいは十分機能しないために起きる色覚異常
- 後天色覚異常:網膜や視神経の病気の1つの症状として両目または片目に現れる色覚異常
また、先天色覚異常は、異常のある錐体の種類によって次のように分類されます。
- 1型色覚:赤を感じる錐体の欠損または機能低下
赤が薄暗く見え、ピンクと水色の判別が困難である特性に加え、以下の2型色覚の特性も併せ持っています。危険を知らせる色としてよく使われる「赤」に気づきにくいということを意識して、生活することが大切です3)。 - 2型色覚:緑を感じる錐体の機能低下または欠損
最も多いタイプで、日本人男性の4%弱を占めます。青と紫、赤と緑、黄緑とオレンジ色、ピンクと灰色の判別が難しいという特性があります。 - 3型色覚:青を感じる錐体の機能低下または欠損
きわめて稀なタイプです。
色覚検査
学校で、下記のような絵から数字や記号を読み取る検査を受けた世代の方もいらっしゃるのではないでしょうか。この絵(イメージ図)は「石原色覚検査表」といい、色覚異常のスクリーニングの手段として最も普及しているものです。しかし、この検査で異常が認められても、色覚異常の診断にはなりません。色覚異常の診断には「アノマロスコープ」、その程度の判定には「パネルD-15」という、それぞれ別の検査が必要になります。これらの検査は、どの医療機関(眼科)でも行っているという種類のものではありません。
※ この写真はイメージ図であり、検査には使用できません。
かつては、小学4年生を対象に学校で色覚検査が行われていましたが、「色覚検査をすることは差別につながる」などの声が挙がり、2003年より学校では色覚検査が行われなくなりました。しかしその後、自身の色覚異常を知らずに成長すると、進学・ 就職などで不利益を受ける可能性があることが分かり、2016年より希望者は学校で色覚検査を受けられるようになりました。
子どものうちに色覚異常に気づくことができれば、色の判別を誤らないよう対策を講じたり、自分に適した職業について十分に考えたりすることができます。また、色覚が正常であることが求められる職業もありますので、早めに色覚異常がないか確認しておきましょう。
色覚異常をセルフチェックする方法はある?
最近は、スマートフォンやパソコン上で色覚異常をセルフチェックできるウェブサイトやアプリケーションも登場しています。しかし、このようなセルフチェックは、眼科で行われている色覚検査とは条件が異なりますので、結果に関してはあくまでも参考程度と考えてください。スマートフォンやパソコンのディスプレイに表示される色は、実際に検査で使用する色とは異なる場合もあり、正確に検査を行えるとは限らないためです。
ご自身の色覚について相談したいことがある場合は、必ず眼科を受診しましょう。
色覚異常といわれたら?
普段の生活について
自分の色の認識の仕方が他の人と違うということが分かっていると、経験とともに、形・ 質感・ 記憶など色以外の要素をヒントに色を判断する能力が養われていき、だんだんと色を間違えなくなってきます3)。しかし、ヒントになる要素が少ない状況であったり、雨天などの悪条件下であったりすると識別が困難になる場合があります。
進学や就職について
色覚異常のある人が、特定の学校に入学・ 進学できない時代もありましたが、現在はこのような制限がほとんどなくなっています。しかし、鉄道運転手の場合には色覚が正常であることが求められますし4)、航空管制官、旅客機のパイロットについては、「航空業務に支障をきたすおそれのある色覚の異常がないこと」とあり、一定の条件が課されています5)。また、微妙な色の判別を要する職業には就くことが難しいかもしれません。色覚異常があることが分かったら、将来就きたい職業について事前に調べておきましょう。
運転免許について
自動車運転免許は、信号の色(赤・ 黄・ 青)を見分けられれば取ることができます。信号機の緑色はやや青色寄りに設定されているため、赤と緑の判別が困難な方でも間違えにくいようになっています。また、最近は、色覚異常の人が赤と黄色を判別できるように、特殊なLEDを使用して赤信号に×印を表示させることのできる信号機も開発されています。
社会に求められること
私たちの社会は、どうしても多数派の人が暮らしやすいものになってしまう傾向があります。色に関しても同様です。誰にでも識別しやすい色の組み合わせを活用して「色のバリア」をなくし、なるべく多くの人が心地よいと感じる色環境をデザインすることが望まれています。
学校でも色覚異常に対する理解が進んできています。色の見え方が違う生徒がいることを学校の先生が意識し、色の名前で答えさせる問題は出さない、緑の黒板に赤のチョークを使わないなど、配慮するようになってきました。
カラーユニバーサルデザインとは?6)
では、誰もが見やすいようにデザインをするには、どのような色使いをすれば良いのでしょうか?
近年、情報を伝える側の人は、色覚異常の人だけでなく色覚機能が弱くなる高齢者にも配慮した「カラーユニバーサルデザイン」を使用することが推奨されています。
以下はカラーユニバーサルデザインにおける配慮の例になります。
- 色覚異常の人が判別しにくい色の組み合わせを避ける
- 鮮やかさや色の明るさの差を利用する
- 書体、大きさ、囲み枠などで変化をつける
- 色の情報を伝えるときには、該当部分に色名を添える
ご自宅のテレビのリモコンをご覧ください。このように、各色ボタンのところに青、赤、緑、黄の色名が表示されていませんか?これもカラーユニバーサルデザインの1例です。
自分が情報を発信する立場になったときには、カラーユニバーサルデザインについて理解し、できるだけ多くの人に見やすいデザインにするようにしましょう。
まとめ
色覚異常は決して珍しいものではなく、日本には色覚異常の人が500万人以上いるといわれています。色覚異常であることを知らずに大人になると、進学や就職の際に希望する職業に就けなかったり、専門教育が受けられなかったりする場合があるかもしれません。早めに色覚検査を受け、自分の色覚の特徴を把握しておくと、調べたり考えたり対策したりする時間が得られるのではないでしょうか。色覚異常が疑われる場合や自分に色覚異常があるかどうか知りたい場合は、インターネット上の情報を元に自己判断をするのではなく、眼科を受診してきちんと検査を受けましょう。
<参考資料>
1) 公益財団法人 日本眼科学会:目の病気 症状から調べる
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/symptoms.html?catid=84
2) 日本遺伝学会:遺伝学用語改訂について
https://gsj3.org/wordpress_v2/wp-content/themes/gsj3/assets/docs/pdf/revisionterm_20170911.pdf
3) 公益社団法人 日本眼科医会:目についての健康情報 色覚異常といわれたら
https://www.gankaikai.or.jp/health/50/index.html
4) 一般社団法人 日本民営鉄道協会
https://www.mintetsu.or.jp/knowledge/term/16434.html
5) 一般社団法人 航空医学研究センター
https://www.aeromedical.or.jp/manual/manual_10.htm
6) NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構:カラーユニバーサルデザイン(CUD)とは