人がモノを見るためには、目に入る光が角膜(黒目)や水晶体(目の中のレンズ)を通過し、目の中でスクリーンの役割をする網膜上で1つに集める必要があります。この光が1点に集まったところを焦点といい、遠くを見ているときに焦点が網膜上にある状態を「正視」、焦点が網膜より手前の1カ所に集まっている状態を「近視」、焦点が網膜の後ろ側の1カ所に集まっている状態を「遠視」と言います。一方、角膜や水晶体がラグビーボールのように歪んでいる状態の目では、焦点が一カ所に集まりません。このような状態を乱視と言います。近視、遠視、乱視はいずれも「屈折異常」ですが、その仕組みや見え方は異なるため、「ぼやける」「ぶれる」「二重に見える」など、患者さんの表現も多種多様あります。
乱視は矯正した方がいい?正しい矯正方法を知って悩みを解決しよう
作成日:2022/12/15 更新日:2024/11/13
近視、遠視、乱視の違いとは?
乱視の原因って何?
乱視は角膜や水晶体がラグビーボールのように歪んでいるため、光を1つに集められず、焦点が複数できてしまう状態です。乱視には大きく分けて「正乱視」と「不正乱視」の2種類あります。「正乱視」は角膜や水晶体がラグビーボールのような縦長や横長になった状態で、一定方向に歪んでいるために焦点が2つになってしまう乱視を指し、単なる「乱視」というときはこの「正乱視」を指すことが多いです。
一方、「不正乱視」とは角膜がでこぼこになっていたリ、円錐状に尖ったりしているために焦点が複数できてしまう乱視を指し、主に病気や外傷によって起こります。正乱視はメガネやコンタクトレンズで矯正が可能ですが、不正乱視はメガネやソフトコンタクトレンズでは矯正ができず、程度によってはハードコンタクトレンズが適用となります。
乱視は矯正が必要?どんな矯正方法がある?
乱視は主に角膜や水晶体がゆがんでいるために起こります。この角膜のゆがみと水晶体のゆがみが、人によっては打ち消しあったり、強め合ったりしているのですが、最終的に目全体の乱視として残っている部分をメガネやコンタクトレンズで矯正している、というわけです。
一方、屈折矯正手術などで角膜の形を変えて矯正を行う方法もあります。
乱視が適切に矯正されていないと、見え方が悪くなったり、不安定になったりするだけでなく、眼精疲労を引き起こす原因にもなり得ます。乱視矯正の必要性や、その方法はご自身の目の状態や生活スタイルなどによって異なります。以下に矯正方法の一例をご紹介しますが、ご自身に適した方法については、眼科医と相談するようにしましょう。
1)眼鏡による矯正
眼鏡による矯正は一般的で、比較的簡便に取り扱うことができ、乱視に限定せず屈折異常の矯正において基本的な方法です。幅広い度数に対応でき、オーダーメイドで作ることもできるのが特長ですが、一方で、天候や温度、湿度によってレンズが曇ってしまったり、ヘルメットやゴーグルを使用するシーンでは不便を感じる事もあります。また、乱視を含めて左右の目で屈折異常の程度に大きな差がある場合はメガネで対応できないことがあります。
2)コンタクトレンズによる矯正
眼鏡に比べるとフレームの制限を受けないので視野が広くなることや、サングラスが自由に使用できること、環境変化によるレンズの曇りなどのわずらわしさがないことが特長です。また、左右の乱視の程度に差があった場合でも比較的見え方に影響を受けにくいことも特長です。一方で、コンタクトレンズは目に直接のせる高度管理医療機器ですから、正しく取り扱えるか、コンタクトレンズを目にのせても問題はないか、などのチェックに加えて使用する方ご自身の正しい衛生管理も必要です。間違った使用をしてしまった場合、目のトラブルの原因になります。また、目に異常がある、有事の際にレンズが無い、ケアができない、など、コンタクトレンズが装用できないシチュエーションがある事は常に想定しなければなりません。眼鏡は必ず持っておくようにしましょう。
不正乱視の場合はメガネやソフトコンタクトレンズでは矯正できませんが、ハードコンタクトレンズであれば矯正ができることがあります。不正乱視は角膜がでこぼこの状態ですので、硬い素材でできているハードコンタクトレンズであれば、レンズと角膜にある涙がレンズの役割をし、角膜のでこぼこを矯正してくれるからです。
3)オルソケラトロジーによる矯正
就寝時に専用のハードコンタクトレンズを装用し、就寝中に近視や乱視がなくなるように角膜の形を変えて矯正する方法です。最大の魅力は日中、裸眼で過ごせることですが、適応には限界があり、感染症などのリスクも皆無ではありません。また、オルソケラトロジーの適用には条件があり、誰にでも使えるものではありませんので、興味がある場合は眼科医に相談するようにしましょう。
4)屈折矯正手術(レーシック)による矯正
屈折矯正手術の代表的なものにレーシックがあります。レーシックは、レンズの役割をしている角膜の一部にレーザーを当て、角膜を削り取って角膜の屈折力を変えることで矯正する方法です。ただし、18歳以上であることや、手術に適した目の状態であるかなど、レーシックにも適応があり、条件を満たせば近視と乱視を同時に矯正することができます。眼鏡やコンタクトレンズの装脱着といったわずらわしさから解放され、裸眼で生活ができるようになるのが最大の魅力です。一方で、手術なので、それに伴う合併症のリスクは皆無ではないことや、老眼が始まる40代以降では眼鏡やコンタクトレンズの使用がまた必要になることなどは、デメリットとして挙げられます。興味のある方は、ご自身の生活スタイルなども考慮し、まず眼科医に相談してみましょう。
これら以外にも乱視矯正には様々な方法があります。しかし、それぞれの乱視矯正の方法には乱視の程度や目の状態、年齢、職業、生活スタイル、など様々な適応条件があります。どの方法が良いのかは眼科医に相談して決めるようにしましょう。
ソフトコンタクトレンズによる乱視矯正
乱視の矯正は、メガネ以外にコンタクトレンズで行うこともできます。乱視を矯正するには、乱視矯正用の度数のほか、乱視の原因である歪みの方向を示す「軸」があり、目のゆがみの方向と矯正レンズの軸を合わせる必要があります。眼鏡ではフレームに固定されているため、回転することがありませんが、ソフトコンタクトレンズは目の上で回転してしまいますので、乱視用ソフトコンタクトレンズには目の上で回転しないようなデザインが施されています。
また、たいていの場合、乱視に加えて近視のある方が多く、乱視用ソフトコンタクトレンズには近視矯正用のレンズも組み込まれていることが一般的です。
乱視用コンタクトレンズに興味のある方は、眼科医と相談した上で、自分の目に合った製品を処方してもらうようにしましょう。
乱視に関するよくある疑問
1)乱視の矯正はいつから始めればいい?
乳児や幼児の場合は乱視があっても、それを訴えることができません。生まれたばかりの赤ちゃんの視力は光を感じる程度ですが、その後いろいろなものを見ることで視力が発達します。その視力は6歳頃までに完成する、と言われていますので、6歳までに「見る」という事に何らかの障害が生じた場合は見る事自体をあきらめてしまい、視力の発達が阻害されて弱視になる可能性が高まります。強い乱視も弱視の原因の1つですので、3歳児検診などを受け、早期発見、早期治療を行うようにしましょう。
成人の場合は何となく見えにくい、といった症状があれば、乱視の可能性も考えられますが、そのままにしておくと眼精疲労やパフォーマンスの低下につながる恐れも。子供、成人にかかわらず、異常に気付いたら早めに眼科を受診しましょう。
2)自分が乱視であるかどうかは、どうしたらわかる?
乱視であるかどうかは眼科で診断を受ける必要があります。眼科では機械で目の形や度数を測り、さらに屈折検査で目がどれくらいの乱視を持っているかを調べますので、乱視があるかを確実に知ることができます。
しかし、乱視を矯正せずに過ごしてこられた方は、その見え方が当たり前だと思っていることも。まずはご自身が乱視特有の見え方になっていないか確認しましょう。
一般的な乱視の見え方としては、ものが二重に見える、にじんで見える、歪んで見える、ぼやけて見える、まぶしさを感じやすい、などがあります。また、まぶたを細めずに遠くにある建物の窓枠を見たときに、横枠よりも縦枠がよりはっきり見えるような場合には、乱視の可能性があります。思い当たる症状があれば、眼科を受診するようにしましょう。
3)乱視でも目を細めると見える場合は矯正しなくてもいい?
乱視の程度によっては目を細めるとよく見えるようになることがあります。しかし、これは角膜や水晶体の歪みで生じる光の歪みが、目を細めることによってその程度が少なくなり、一時的に乱視の症状を軽減しているだけです。目つきが悪くなったりするなど容姿的な問題も生じますので、眼科で適切に矯正してもらうようにしましょう。
4)乱視は自然に治るの?
乱視は角膜や水晶体のゆがみが原因ですので、その形状が加齢による生理的変化などに影響を受け、症状が変化することはありますが、乱視が自然に治ることはありません。
まとめ
乱視は、程度の差こそあれ、誰もがもっている非常にありふれた状態です。ごく軽度の場合は必ずしも矯正しなくてはならない、という事ではありませんが、それは眼科で検査を受けないとわかりません。乱視があるのに放置していると見にくいだけでなく眼精疲労につながる可能性もあります。乱視は先に述べたような様々な矯正方法がありますので、矯正が必要な目の状態なのか、どのような矯正方法が良いのかは、眼科できちんと検査・ 指導を受けたうえで、眼科医に相談するようにしましょう。
<参考資料>
・ 松本 富美子 他 編:「視能学エキスパート 光学・ 眼鏡」(第2版)医学書院, 2023
・ 日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドライン委員会: オルソケラトロジーガイドライン(第2版)日眼会誌, 2017
・ 大橋 裕一 編:「専門医のための眼科診療クオリファイ6 コンタクトレンズ自由自在」中山書店, 2011
・ 小林 義治 他 編:「視能学」(第3版)文光堂, 2022
・ 飯田 知弘 他 編:「眼科検査ガイド」(第2版)文光堂, 2022
・ 公益財団法人 日本眼科学会
・ コンタクトレンズ診療ガイドライン(第2版)
https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=298&dispmid=909
・ 公益社団法人 日本眼科医会
・ 一般社団法人 日本コンタクトレンズ協会