明るいところから暗いところに入ったり、部屋の電気を切って急に真っ暗になったりすると、しばらく何も見えなくなりますが、時間が経つにつれて暗さに目が慣れ、次第に周りが見えるようになってきます。これを暗順応(あんじゅんのう)と呼びます。ところが、時間が経っても暗いところではよく見えないままになってしまう症状があり、それを夜盲症(やもうしょう)といい、一般的には鳥目(とりめ)と呼ばれています。
鳥目(夜盲症:やもうしょう)とは?
作成日:2023/01/19 更新日:2024/11/13
鳥目(夜盲症)とは?
鳥目(夜盲症)の原因と見え方
私たちの目の奥には網膜(もうまく)という光を感じる膜があります。そこで実際に光を感じる細胞を視細胞(しさいぼう)と呼びますが、この視細胞には錐体(すいたい)細胞と杆体(かんたい)細胞があります。錐体細胞は私たちが明るい所にいるときに活躍する細胞で、色の識別も担当していますが暗い所ではうまく機能することができません。そんな暗い所で活躍するのが杆体細胞です。
鳥目(夜盲症)の方ではこの杆体細胞の機能が弱い、あるいは失われているため、暗いところではよく見えないという状態になっています。暗い所でつまずきやすかったり、物によくぶつかったりするといった症状で、夜盲症に気づく人もいます。
しかし、明るい所では普通に見えますし、生活圏が夜でも比較的明るかったりすると、夜盲症であることに気づきにくい場合もあります。
鳥目(夜盲症)をきたす病気
鳥目(夜盲症)は頭痛や腹痛と同じで症状を示す言葉であり、それ自体は病名ではありません。鳥目(夜盲症)をきたす病気にはどのようなものがあるのでしょうか。
網膜色素変性症
基本的には遺伝性の病気で、人口4,000~8,000人に1人が発症するとされ1)、遺伝性の病気の中では最も患者数が多いとされています2)。原因となる遺伝子は非常に数が多く、原因となる遺伝子により遺伝の仕方が異なりますが、家族に網膜色素変性症の方がいない場合[孤発例(こはつれい)といいます]も約半数を占めるようです。症状としては初めに杆体細胞の機能が弱くなり鳥目(夜盲)や周辺部の視野障害が現れます。進行すると錐体細胞の機能も弱くなり、明るい所での視力が低下したり、まぶしさを感じたりします。症状が現れる年齢や症状の進み方には個人差がありますが、一般的には網膜色素変性症そのものの進行は、ゆっくりであるとされています1)。しかし、網膜色素変性症は白内障などの目の合併症を伴うことがあり、生じた合併症によっては急に見えにくくなったと感じることもあります。
全身の病気に伴うもの
悪性腫瘍(癌)の患者さんの一部で、網膜色素変性のような症状が現れることがあります3)。また、肝臓の病気でビタミンAが欠乏することで鳥目(夜盲症)になることもあります。医薬品の一部には、夜盲をはじめとする視機能の異常が副作用として報告されています4)。
鳥目(夜盲症)がある場合に行うことがある検査
夜盲症は、「暗いところで物がよく見えない」という症状の名前であり、特定の病名ではありません。そこで夜盲症がある場合に病気を確定するためにさまざまな検査を行います。
眼底検査
最も一般的に行われる検査です。目の奥にある網膜を肉眼で観察する検査です。網膜色素変性症の場合には典型的な所見が認められますが、初期の場合には目立った異常が認められない場合もあります。
光干渉断層計(OCT:optical coherence tomography)
特殊な検査機器を使って網膜の断面を調べる検査です。眼底検査が肉眼で表面を観察する検査であるのに対し、OCTは肉眼では捉えられない異常を検出することができます。
視野検査
これも比較的普及している検査方法です。視野、は見える範囲のことをいいますが、この検査では単に見える範囲の広さを調べるのではなく、視野の中での光の感度(光を感じる力)も調べています。
他に、網膜電図(ERG:electroretinogram)という網膜の機能を調べる検査や、暗順応の様子を調べる検査、さらには遺伝子の異常を調べるための検査などがあります。しかし、これらの検査を行っている医療機関は限られてきます。また、全身の検査が必要になる場合もあります。
鳥目(夜盲症)の治療法は?
網膜色素変性に対しては、進行を遅らせるための治療や合併症に対する治療を行います。また、まぶしさの原因となる短い波長の光をカットしてくれる遮光眼鏡を使用し、光刺激から網膜を守ります。
全身の病気に伴うものである場合は、原因となっている病気を治療します。ビタミンAが欠乏している場合はビタミンAを補給します。
最近は、夜盲症の人向けの眼鏡型ウェアラブルデバイス(暗所視支援眼鏡)も発売されています5)。高感度カメラで捉えた像を装用者の目の前にあるディスプレイに映してくれるため、暗闇でも見たいものを自然な形で見ることができます。進行して明るい所での視力低下をきたした場合には、拡大読書器も有用です1)。これらのデバイスは、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることが期待されています。
遺伝子治療や人工網膜、網膜再生医療の研究も世界中で進んでいます。
まとめ
鳥目(夜盲症)は、暗いところで働く杆体細胞の機能が弱い、または弱くなることで生じます。この症状を引き起こす原因は多岐にわたります。周りの人よりも自分の方が暗いところで見えにくいんじゃないかな?と感じたときには、眼科で検査を受けましょう。
<参考資料>
1) 公益財団法人 日本眼科学会:網膜色素変性診療ガイドライン
https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=306&dispmid=909
2) 柳 靖雄:「網膜診療クローズアップ」 改訂第2版 メジカルビュー, 2018
3) 大黒 浩 他:日眼会誌 101(4):283-287, 1997
4) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 網膜・ 視路障害 平成21年5月(令和元年9月改訂)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1o01_r01.pdf
5)社会福祉法人 日本ライトハウス 情報文化センター:暗所視支援眼鏡