糖尿病網膜症とは?突然の視力低下もある?治療法も併せて解説
作成日:2022/12/8 更新日:2024/11/13
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糖尿病とは?
食事をすると栄養が吸収され、血液中の糖が増えます(血糖値が高くなります)。この糖は血液に乗って様々な臓器に到達し、そこでエネルギーとして使われます。この際に必要なホルモンが「インスリン」です。インスリンの介在により各臓器で糖が消費され、血糖値はだんだん下がっていきます。血糖値が下がると空腹感が生まれ、また食事をとることで必要なエネルギーを確保する、このサイクルを繰り返しています。
糖尿病とは、インスリンが不足したり働きが悪くなったりして血糖値が異常に高くなる病気です。血糖値が高い状態が続くと血管が障害され、その結果、様々な臓器が正常に機能できなくなってしまうのです。
糖尿病網膜症とは?
糖尿病網膜症とは、糖尿病によって網膜の血管に障害が起きた状態をいいます。糖尿病腎症、糖尿病神経障害と合わせて、糖尿病の3大合併症の1つとされています。自覚症状がない、または乏しいまま進行し、最終的には失明にまで至ることがあります。現在、成人の失明原因の第2位を占めており2)、毎年3.83%の日本人の糖尿病患者が糖尿病網膜症を発症すると報告されています3)。
糖尿病網膜症の原因
糖尿病網膜症の原因は、網膜にある細い血管の障害(細小血管障害)です。網膜には細い血管が張り巡らされており、この血管から供給される栄養や酸素を利用することで、網膜は機能しています。血糖値が高い状態が続き、この血管が障害されると血管が細くなったり閉塞したりしてしまい、血流の供給量が少なくなったり失われたりします。その結果、網膜が正常に機能できなくなってしまうのです。
糖尿病網膜症の病期と症状
糖尿病網膜症は、大きく3つの病期に分けられており、単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症の順に進行していきます。網膜には痛みを感じる神経が分布していないため、どの病期においても「痛み」という症状は出ません。
1. 単純糖尿病網膜症
この段階では、自覚症状はほとんどありません。眼底検査を行うと、細い血管が膨らんでできる「血管のこぶ」(毛細血管瘤)や、小さな出血(点状出血やそれより大きめの斑状出血)、障害された血管から漏れ出てきた脂質やタンパク質が沈着してできたシミ(硬性白斑)などが認められます。血管が閉塞してできたシミ(軟性白斑)が少数見られることもあります。
2. 増殖前糖尿病網膜症
この段階では、多数の軟性白斑、静脈の異常、不規則な形の毛細血管などがみられます。血管の閉塞が広範囲にわたり、網膜に十分な酸素が供給されない状態に陥ります。この時期になっても、自覚症状はほとんどありません。
3. 増殖糖尿病網膜症
網膜が十分な酸素を得られない「酸欠状態」が継続すると、それを解消しようとして新しい血管(新生血管)が作られ始めます。新生血管は、網膜だけではなく、網膜から立ち上がるように硝子体へも伸びていきます。新生血管の出現自体が自覚症状を引き起こすことはありませんが、新生血管はもろくて破れやすいため、眼底や硝子体内で出血を起こすことがあり、それにともない様々な見え方の異常が出現します。
硝子体は眼球の大部分を占める透明な組織です。ここで出血が起きると、視野に黒い影やゴミの様なものが見えたり(飛蚊症)、目の前に赤いカーテンを引いたように見えたりします。出血量が多いと視力が急に低下します。また、かさぶたのような膜(増殖組織)が出現し、これが網膜をひっぱって網膜剥離(牽引性網膜剥離)を起こすことがあります。
また、網膜症のどの病期においても、糖尿病黄斑浮腫という状態が生じる可能性があります。黄斑とは、網膜の中でも良好な視力維持に重要な場所のことで、この部分に浮腫(むくみ)が生じることを黄斑浮腫といいます。糖尿病黄斑浮腫が生じると、視力低下やものが歪んで見えるなどの症状が現れます。
糖尿病網膜症の検査方法
眼底検査を行い、網膜の状態を観察します。この時に使用する検査用の点眼薬の効き目が薄れるまでの数時間、光がまぶしかったり、見えにくかったりという状態が続くため、車両の運転はできなくなりますので受診の際には注意しましょう。眼底検査を行う頻度はその時の目や血糖値の状態で変化しますので、眼科医の指示に従いましょう。
糖尿病網膜症の治療法
糖尿病網膜症の治療法には以下のようなものがあります。進行の程度や病状に合わせて、適切な治療方法や治療時期を選択します。これらすべての治療は「これ以上進行させない」ためのものであり、障害された網膜を元の状態に戻す治療方法はありません。
1. 網膜光凝固術
レーザー光を照射して網膜を焼くことで、網膜症の進行を防ぐ治療法です。
網膜症が進行してしまう要因の1つは、網膜における酸素不足です。酸素が足りない状態が続くと、不足した酸素を補おうとして新生血管が網膜に伸びてきてしまいます。そこで、網膜の一部をレーザー光によって焼いてしまい、網膜が必要とする酸素の総量を減らし、相対的に酸素不足を解消する、という処置になります。結果として、新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管が退縮したり、といった効果を得ることができます。
ただし、レーザー光で焼かれてしまった部分の網膜は機能が落ちてしまいます。網膜全体を救うために、やむを得ず行う治療といえます。また、この治療は、網膜症の悪化を防ぐものであり、網膜を元の状態に戻すことを目的とした治療ではありません。光凝固術は、外来通院で治療でき、点眼麻酔だけで行います。
2. 抗VEGF療法
「血管内皮増殖因子(VEGF)」とは、新生血管の発生を助長するたんぱく質です。抗VEGF療法とは、VEGFのはたらきを抑制する薬を眼内に注射することで、新生血管の発生を抑制する治療法です。網膜光凝固と同様、外来通院でできる治療法になります。
3. 硝子体手術
硝子体手術は、眼球に細い手術器具を挿入して、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、はがれた網膜を元に戻したりする治療法です。また、網膜がはがれる原因となっている場所にレーザーを当てて、再出血や網膜剥離の再発を予防します。光凝固術で網膜症の進行を予防できなかった場合や、糖尿病網膜症と診断された時点で網膜剥離や硝子体出血が生じている場合に行われます。この手術も、それ以上の視機能低下を防ぐために行われます。
糖尿病網膜症の予防方法
糖尿病網膜症は糖尿病のない方には発症しません。したがって、一番の予防法は糖尿病にならないことです。糖尿病は遺伝的な背景や加齢に生活習慣(肥満・運動不足・カロリー超過)が重なって発症します。糖尿病は全身を蝕む恐ろしい病気ですので、生活習慣を見直し、糖尿病を予防するようにしましょう。もし糖尿病になってしまったら、自覚症状の有無を問わず必ず眼科を受診し、適切なタイミングで治療が受けられるようにしましょう。
糖尿病網膜症の進行に関するリスク因子として、いくつかのものが挙げられています。高血糖は言うまでもなく大きなリスク因子であり、糖尿病の罹病期間が長いほど、糖尿病網膜症の有病率と重症化率は上がっていきます3)。また、糖尿病を発症した年齢が若いほうが糖尿病網膜症は重症化しやすいことも報告されています3)。高血圧症や腎臓障害の存在3)、喫煙習慣や運動不足も糖尿病網膜症の重症化リスクとして報告されています4)。
まとめ
糖尿病網膜症は、自覚症状がない、または乏しいまま発症・進行していき、ひとたび進行してしまえば元の状態に回復できない病気です。糖尿病と診断されたら、自覚症状が何もなくても眼科を受診し、眼科医の指示に従って定期検査を受けるようにしましょう。
<参考文献>
1) 平成28年「国民健康・栄養調査」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html
2) 交益財団法人 日本眼科学会
3) 糖尿病網膜症ガイドライン(第1版)
4) Kawasaki, R. et al. Diabetologia 54:2288-2294, 2011
5) 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版) 日本眼科学会