加齢黄斑変性
症状や失明のリスク、治療方法などを解説
作成日:2022/12/8 更新日:2024/11/13
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加齢黄斑変性とは?
加齢黄斑変性とは、網膜(もうまく)の中心にある黄斑(おうはん)という場所が加齢とともにダメージを受け、ものが歪んで見えたり、視力が低下したりする病気のことです。
目に入ってきた光は、目の中の網膜(もうまく)という部分で電気信号に変換された後、脳へと伝えられます。この網膜の中心部には、直径1.5~2mmの黄斑(おうはん)という場所があります。黄斑は細かいものを見たり色を識別したりするのに非常に重要な場所で、私たちは見たいものに黄斑が向くように目の向きを変えるということを無意識にしています。視界の中央は黄斑でみているため、黄斑が傷んでしまうと視界の中央の見え方に異常をきたすことになるのです。
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加齢黄斑変性の有病率
1998年に福岡県久山町の住民を対象に行われた調査では、50歳以上の住民の0.87%に加齢黄斑変性がみられ、9年後の再調査では、この割合が1.3%に増加していました1)。日本人の視覚障害(失明)の原因の第4位2)に挙げられているこの病気は、高齢になるほど多くみられ、女性よりも男性のほうが約3倍かかりやすいとされています。
加齢黄斑変性の原因
網膜がきちんと働くためには、網膜の下にある「網膜色素上皮」や、さらにその下にある脈絡膜(みゃくらくまく)という血管に富んだ膜が正常に機能していることが必要です。加齢に伴い、老廃物が網膜色素上皮の下に蓄積してしまうと黄斑が傷んでしまいます。
加齢黄斑変性、という名の通り、50歳以上の方は発症するリスクが高いとされています。また、喫煙、食習慣、肥満、高血圧症、脂質異常症、遺伝といった要因も、発症リスクに関わっていると言われています3)。
加齢黄斑変性の病型
加齢黄斑変性には「萎縮型(いしゅくがた)」と「滲出型(しんしゅつがた)」の2種類があります。両タイプとも見え方に影響しますが、次のような違いがあります。
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<萎縮型>
黄斑部の網膜色素上皮がだんだんと委縮し、それに伴って黄斑部の網膜の機能が低下していきます。進行はゆっくりです。欧米ではこの病型が多いとされています4)。
<滲出型>
滲出型では、脈絡膜から網膜に向かって新しい血管(新生血管)が作られます。この新生血管は、通常の血管よりもろくて破れやすいため、血液中の水分がにじみ出てきたり(滲出)、血管が破れて出血が起きたりします。その結果、黄斑部がむくんでしまったり、傷んでしまったりして、ゆがんで見えたり視力が低下したりします。急激に視力が低下する場合もあります。日本ではこの病型が多いとされています4)。
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加齢黄斑変性の症状は?
加齢黄斑変性で黄斑がむくんだり、傷んだり、黄斑で出血が生じたりすると様々な見え方の異常をきたします。しかし、ふだん私たちは両目でものを見ているため、片目で異常が生じても普段の生活では見え方の変化に気がつかないことがあります4)。時々、片目ずつの見え方を確認することも大事です。
<ゆがんで見える(変視症)>
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加齢黄斑変性では、中心部がゆがんで見えます。これは、網膜の中心部にある黄斑がむくんでそこにある細胞の配列が乱れることが原因です。周辺は正常に見えます。
<中心が黒く見える(中心暗点)>
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症状が進行すると、見たい部分が黒くなって見えなくなります。
<視力低下や色覚異常>
黄斑は視力に重要な場所であるため、黄斑が傷むことで視力が低下します。萎縮型ではゆっくりと低下していきますが、滲出型では急激に視力が低下することもあります。また、黄斑は色の識別にも重要な場所であるため、進行すると色の識別に異常をきたすこともあります。
加齢黄斑変性は早期発見が大切!失明するリスクは?
加齢黄斑変性の検査方法
加齢黄斑変性の診断や経過観察に用いられる検査法には次のようなものがあります。治療内容や病状により、医師が選択して行いますので、必ずしもすべての検査をすべての患者さんに行うわけではありません。検査を行う頻度も病状により異なります。
<アムスラー検査>
方眼紙のような格子状の図を片目ずつ見て、線がゆがむ、中心が見えない、一部が欠けて見えるなど、見え方に異常がないか検査します。日本眼科医会のホームページでは、見え方チェックシートが掲載されています。
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<視力検査>
加齢黄斑変性の影響を含めた視力低下がないかを調べます。
<眼底検査>
網膜の状態とともに、出血・浮腫・新生血管などの有無を確認します。
<蛍光眼底造影検査>
造影剤(蛍光色素)を静脈に注入して、新生血管の有無や色素が血管から漏れる様子などを詳しく検査します。
<光干渉断層計(OCTスキャン)>
網膜の断面を連続撮影し、網膜や新生血管の様子を立体的に細かく調べる検査です。
加齢黄斑変性の治療方法とは
萎縮型加齢黄斑変性に対する治療方法は、残念ながら現在のところありません。経過観察、ライフスタイルと食生活の改善、そして、サプリメント(ビタミンC、ビタミンE、ベータカロチン、亜鉛)摂取が推奨されています5)。
滲出型加齢黄斑変性に対する治療方法には、以下のようなものがあります。病状により必要な治療法を医師が選択して、あるいは組み合わせて行います。
薬物療法(抗VEGF療法)
滲出型加齢黄斑変性にみられる新生血管は、血管内皮増殖因子(VEGF)という物質によって成長が促されます。抗VEGF療法は、このVEGFの働きを抑える薬剤を目の中に注射することで新生血管を抑制する治療法です。この治療は、通常外来で行います。目を消毒して清潔な状態にした後に、目薬による麻酔をしてから注射をします。治療効果には個人差があるため、治療薬の投与が長期間にわたって必要になる場合もあります。治療を中断すると再発し、治療前の状態に戻ることもあるため、眼科医の指示に従って根気良く治療することが大切です。
レーザー光凝固
レーザーを照射して新生血管を焼く治療法です。レーザーを照射した部分は、新生血管だけでなく網膜自体も焼かれてしまうため、その部分は見えなくなってしまいます。そのため、新生血管のある場所によっては施術できないこともあります。
光線力学的療法
レーザー光凝固を行えない場所に新生血管がある場合でも使用することができます4)。 光に反応するベルテポルフィンという薬剤を体内に注射した後、この薬剤が反応する波長のレーザー光を新生血管に照射します。ベルテポルフィンがレーザー光に反応すると活性酸素が発生し、新生血管にダメージを与え詰まらせます。ベルテポルフィンは新生血管に集まる性質があるため、正常な網膜を傷つけることなく、新生血管のみを破壊することができます。ベルテポルフィンは光に反応するため、この薬を注射した後で肌に光が当たると、やけどのような症状が出ることがあります。治療後5日間は、肌や目に直射日光や強い室内光が当たらないよう注意する必要があります。
加齢黄斑変性を予防するには?
加齢黄斑変性の予防には、生活習慣や食習慣の改善が重要であるとされています3,5)。
<禁煙>
喫煙習慣がある人は、ない人と比べて加齢黄斑変性を発症するリスクが高いことが分かっています5)。そのため、予防手段の中でも禁煙は重要です。
<サプリメント・食品>
海外で行われた大規模な臨床試験では、抗酸化ビタミン(ビタミンC、ビタミンE)、抗酸化ミネラル(亜鉛)、ルテイン、オメガ3脂質などを含むサプリメントを摂取することで、加齢黄斑変性の発症・進行リスクが低下することが示されています6)。
食品としてはブロッコリーやパプリカ、イモ類、青菜類、果物がビタミンCを、アーモンドなどのナッツ類やうなぎ、オリーブ油などがビタミンEを多く含んでいます。脂肪が多い魚(サケ、マグロなど)や甲殻類(カニ、ムール貝、カキなど)はオメガ3脂肪酸を多く含みますし、カキには亜鉛も豊富に含まれます。
ルテインはホウレンソウ、ケール、ブロッコリーなどの緑黄色野菜や卵黄に多く含まれています。
食生活の工夫とともに、医師と相談してサプリメントの服用を検討するのも良いでしょう。
まとめ
加齢黄斑変性は、加齢に伴って起こる病気です。進行すると回復が難しいため、早期発見、早期治療が重要です。健康診断を活用したり、日ごろから片目ずつの見え方を確認したりするようにしましょう。また、禁煙に加え、食生活を含めた生活習慣の改善が加齢黄斑変性の予防になりえます。万が一、加齢黄斑変性と診断された場合には、医師の指導に従って治療と経過観察を継続するようにしましょう。
<参考資料>
1) Yasuda M. et al. Nine-year incidence and risk factors for ager-related macular degeneration in a defined Japanese population the Hisayama study. Ophthalmology 116:2135-2140, 2009
2) 日本眼科学会
3) Catherine J. et al. Age-Related Macular Disease Med Clin North Am. 105(3):473-491 2021
4) 日本眼科医会
5) 加齢黄斑変性の治療指針 高橋 寛二ほか 日眼会誌116(12) p1150-1155, 2012.
6) Emily Y. Chew et al. Long-term Outcomes of Adding Lutein/Zeaxanthin and ω-3 Fatty Acids to the ARDES Supplements on Age-Related Macular Degeneration Progression: AREDS2 Report 28. JAMA Ophthalmol 140(7) 692-698. 2022.