「ものが見える」という感覚(視覚)は、目から入った光が脳で認識されて初めて生まれます。このプロセスにおいて目から入った光を脳に伝える役割を果たしているのが「視神経」です。緑内障は視神経が傷んでしまい、目で受け取った光を脳に送ることが難しくなる結果、視野欠損などが生じ見にくくなる病気です。
緑内障とは?緑内障の原因・ 症状や治療法を解説
作成日:2024/11/13 更新日:2024/11/13
緑内障とは
緑内障を理解するために
緑内障の説明を始める前に、目の構造について簡単に見ていきましょう。
目の前方の拡大図を下に示します。角膜はいわゆる「黒目」です。黒目といいますが、角膜は透明な膜です。角膜が黒く見えるのは、その奥にある「虹彩(こうさい)」に色素が多いためです。青い目の方は、角膜が青いのではなく、その奥にある虹彩の色素が少ないため青く見えているのです。虹彩のさらに奥には「水晶体」があります。角膜から水晶体までの空間は虹彩を境に「前房(ぜんぼう)」「後房(こうぼう)」に分けられ、この空間は「房水(ぼうすい)」という液体で満たされています。房水はずっとそこに同じものがあるわけではなく、「毛様体」で産生され、瞳孔から前房へ流れていきます。房水は角膜と虹彩の付け根が作る「隅角(ぐうかく)」と呼ばれるところにある「線維柱帯(せんいちゅうたい)」を通り、「シュレム管」という細い管に達し、最終的には目の近くの静脈へと流れていくことで、目から流出していきます。
この房水の産生と流出のバランスにより、目の内圧(眼圧)が変化します。つまり、産生量が流出量を上回れば眼圧は上がります。逆に、生産量が減ったり、産生しても追いつかない勢いで流出してしまったりすると眼圧は低下します。
房水が正常にシュレム管に到達し目の外へ流出するためには少なくとも、「隅角が広く開放されていること」と、「線維柱帯が正常であること」の2つが必要です。隅角自体が狭い(角膜周辺と虹彩の付け根が近接している)と、房水が線維柱帯に入っていくこと自体が難しくなりますし、隅角が開いていても、線維柱帯に異常があるとそこでシュレム管に到達しにくくなってしまいます。
緑内障の種類
緑内障は、明らかな原因を認めない「原発緑内障」と、目や全身の病気や薬物の使用などが原因となる「続発緑内障」、子どもに生じる「小児緑内障」の3つに大別されます2)。
原発緑内障
原発緑内障はさらに、隅角の形状によって2つのタイプに分類されています。
1.原発開放隅角緑内障(広義)
隅角が広く保たれているタイプの緑内障の総称です。眼圧上昇を伴うかどうかで、さらに2つに分類されます。
①原発開放隅角緑内障(狭義)
眼圧が上昇(21mmHg超)するタイプの緑内障です。隅角は広く保たれており、線維柱帯やシュレム管といった微細構造に流出を妨げる要素があると考えられています。房水の産生量が流出量より大きくなるので、眼圧が上昇することになるのです。
②正常眼圧緑内障
眼圧が正常範囲にとどまる(10~21mmHg)タイプの緑内障です。従って、眼圧検査だけでは発見することができません。眼圧が正常であるにもかかわらず視神経が傷んでしまうことから、眼圧以外の要素の関与もあると考えられています。日本人ではこのタイプの緑内障が最も多いとされています。
2. 原発閉塞隅角緑内障
隅角が狭く(角膜周辺と虹彩の付け根が近接している)、房水がそもそも線維柱帯に入って行きにくいために流出しにくくなり、眼圧が上昇し視神経が傷むタイプの緑内障です。この中には、「単に隅角が狭いだけでまだ眼圧が上がっておらず、視神経も傷んでいない」「隅角が狭く眼圧は上昇しているが、まだ視神経は傷んでいない」といった、前駆病変的な状態も含まれており、多くの場合、進行はゆっくりですが、隅角の閉塞と眼圧の上昇が急激に生じる(急性発作)場合もあります。
続発緑内障
他の目の病気や目以外の体の病気、使用している薬、外傷などが原因で眼圧が上昇し、視神経が傷んでしまうタイプの緑内障です。原因により、隅角は広く保たれている場合も、狭くなってしまっている場合もあります。
小児緑内障
小児期に発生した、目や体の病気に起因する緑内障の総称で、多くの種類のものが含まれます。生まれたときから緑内障である場合には、目の形成異常や、目以外の体の病気などが原因です。また、生まれたときには発症しておらず4歳以降に発症する「若年緑内障」や、生まれた後で生じた目の他の病気に伴う緑内障や、生まれた後で必要になった薬による緑内障もここに含まれます。
緑内障になりやすい人
年齢(高齢)、家族歴、近視、低血圧、糖尿病、治療・ 経過観察の中断などが、緑内障の危険因子として挙げられています2)。「眼圧は高いけれども緑内障にはなっていない(視神経が傷んでいない)」という状態を「高眼圧症」と呼びますが、この状態も緑内障のリスクが高いと考えられており、定期的な経過観察が必要です。
隅角が狭い原発閉塞隅角緑内障は、女性に多い(男性の約3倍)傾向があります2)。もともと隅角が狭い人や遠視の人は、このタイプの緑内障に多いと考えられています。
「隅角は狭いが眼圧は上昇していない、従って緑内障にはまだなっていない」という状態の方は眼科で定期的に経過をみてもらう必要がありますが、自覚症状はほとんどないので、ともすると通院を忘れてしまう方もいらっしゃいます。そういった場合、知らない間に眼圧が上がって緑内障になっていた、という状態に陥りやすいので、医師の指示に従って経過観察を受けることが大切です。
また、隅角が狭い方では、眼科で検査のために使う散瞳薬(瞳孔を開いたままにする検査用点眼薬)の使用や、一部の内服薬、ストレスや興奮、暗い所での長時間の読書などが引き金となって「閉塞隅角緑内障の急性発作」を発症する場合もあります。閉塞隅角緑内障の方は内服できない薬がありますので、ご自身の緑内障がどのタイプなのかは眼科医に確認してみましょう。
緑内障の症状
初期の緑内障では、自覚症状がほとんどありません。東北大学病院の調査によると、「緑内障の症状を初めて自覚した時に、その症状が何によるものだと思いましたか?」という質問に対し、通院している緑内障患者さんの90%以上の方が、「老眼やただの目の疲れだと思った」と回答しています3)。異常を自覚したときはもちろんのこと、定期的な眼科受診の重要性を示しています。
視野の異常
緑内障になると、視野の中にぼやっと見えにくい場所が現れたり、鮮明に見える視野が狭くなったりしますが、普段両目でものを見ているため、最初のうちは視野の障害に気づかないことがほとんどです。視野の異常に気づく頃には見えない範囲が拡大しており、既に病状が進行していることが多いです。
多くの緑内障では痛みはない
隅角が狭い方で、急激に眼圧が上昇する「急性緑内障発作」が起きると、激しい目の痛みや充血、目のかすみ、頭痛、吐き気といった症状が現れます。しかし、その他の、ゆっくり進行するタイプの緑内障では「痛み」という症状は現れないことがほとんどです。
緑内障の検査方法
以下の検査は、緑内障以外の病気でも行うことがあります。それぞれの患者さんの状態において必要な検査を医師が選択して行いますので、全ての患者さんが全ての検査を受けるわけではありません。
屈折検査・ 視力検査
目の度数や視力を調べる検査です。ものを見る機能を確認するために行います。初期の緑内障では視力は低下しないことが多いです。
細隙灯顕微鏡検査(さいげきとうけんびきょうけんさ)
目に細い光を当て、目の各部位を顕微鏡で拡大した状態で観察する検査です。緑内障の原因となるようなほかの目の病気がないかどうかを観察したり、特殊なレンズを用いて隅角が開いているのか、狭いのかを確認する場合もあります。
眼圧検査
日本人に最も多い正常眼圧緑内障では眼圧は上昇しませんが、ほかのタイプの緑内障では眼圧が上昇します。眼圧は10~21mmHgが正常範囲とされていますので、21mmHgを超えると異常値ということになります。先にお話したように、眼圧は上昇しているが視神経は傷んでいないという高眼圧症の場合もありますので、眼圧が高いことだけで緑内障という診断にはなりません。
眼圧検査は、診断時だけではなく治療を進める中でも重要な検査です。これは眼圧が上昇しない正常眼圧緑内障でも同様です。
眼底検査
目の奥を観察する検査です。緑内障は視神経が傷む病気です。視神経は目と脳をつないでおり、目の奥には視神経の「目の側の端」を見ることができます。この部分を「視神経乳頭」と呼びます。緑内障に伴う視神経の障害は、視神経乳頭の外観の変化としても現れるため、眼底検査で視神経を細かく観察します。また同時に、網膜(もうまく)という光を感じる神経の膜に異常がないかどうかも観察します。
健康診断や人間ドッグの眼底検査で、「視神経乳頭陥凹」とか、「視神経乳頭陥凹拡大」といった指摘があった場合は、早めに眼科を受診するようにしましょう。必ずしも緑内障を意味しませんが、このコメントがついた方の中に一定の割合で「あまり自覚症状のない」緑内障の方が含まれます。
視野検査
視野の異常やその程度を調べる検査です。緑内障の早期発見に役立つとともに、経過観察の際にも行われる検査です。初めは要領がつかみにくいこともありますが、何回か受けるうちに慣れてくる方がほとんどです。集中力も必要な検査なので、体調を整えて臨むようにしましょう。
光干渉断層計(OCT)
眼球のさまざまな部分を拡大して断面として画像化することができる機器です。視神経や網膜、隅角の状態を細かく観察することができます。
緑内障の治療方法
緑内障の治療において、唯一エビデンスが確立されているのは「眼圧下降」で、これは緑内障のタイプを問いません2)。眼圧を下げる目薬が数多く存在しますが、緑内障のタイプや経過によっては、まずレーザーや手術などで眼圧を下げる(または眼圧上昇を防ぐ)必要がある場合もあります。
目薬は医師に指示されたように使用し続けることが大切です。特に初期の緑内障の方では自覚症状があまりないので、点眼し忘れてしまうこともあるかもしれません。「毎日、特定の時間帯に必ず行うこと(歯磨きや入浴など)」と点眼をセットで行うようにする、など、忘れない工夫をしてみましょう。
なお、ここで紹介するものは一般的なものであり、治療法は患者さんの状態により医師が選択します。
開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障を含む)
目薬による眼圧下降を行います。目薬で十分な眼圧下降が得られない場合や十分眼圧が下がったにもかかわらず病気が進行する場合には、レーザー治療や手術を行うこともあります。
閉塞隅角緑内障
レーザー治療や手術で房水の流れを改善したり、隅角の形状を整えたりすることで、眼圧下降を図ります。さらに必要に応じて点眼薬による眼圧下降を行います。
まとめ
緑内障、と聞くと、失明してしまう病気なのではないかと思って不安になる方もいらっしゃるでしょう。患者さんの数が多いので失明原因の第1位を占めていますが、早期の発見と治療開始により、生涯、視野や視力を保つことが可能です1)。健康診断や人間ドッグで眼底検査を受ける機会がない方は、定期的に眼科で検査を受けるのも早期発見につながります。緑内障と診断された場合には、医師の指示に従って治療を継続するようにしましょう。
<参考文献>
1) 公益社団法人 日本眼科医会
2) 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第5版)
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/glaucoma5th.pdf
3) 東北大学病院ウエブマガジン:目のかすみと緑内障