「ものが見える」という感覚(視覚)は、目から入った光が脳で認識されて初めて生まれます。このプロセスにおいて目は、外から入った光を「通す」・ 「集める」・ 「神経が理解できる信号に切り替える」、という役割を果たしています。白内障は、「光を通す」役割に支障をきたした結果、見えにくくなる病気です。
目の各パーツは光を通すために透明なのですが、白内障では「水晶体」が白く濁ってしまうために光が通りにくくなるのです。
作成日:2022/12/8 更新日:2024/11/13
「ものが見える」という感覚(視覚)は、目から入った光が脳で認識されて初めて生まれます。このプロセスにおいて目は、外から入った光を「通す」・ 「集める」・ 「神経が理解できる信号に切り替える」、という役割を果たしています。白内障は、「光を通す」役割に支障をきたした結果、見えにくくなる病気です。
目の各パーツは光を通すために透明なのですが、白内障では「水晶体」が白く濁ってしまうために光が通りにくくなるのです。
「水晶体に濁りがある」という所見自体は40歳代で約40%、80歳以上ではほぼ100%に認められますが、「水晶体の濁りが原因で視力が0.6以下に低下したもの」を改めて白内障と定義すると、50歳代で約1%、60歳代で約4%、70歳代で約15%、80歳代で約40%とされています2)。
白内障はその原因により、次のように分類されます2)。
生まれたときに既に白内障になっているものを指します。高度の場合には、弱視の原因となりうるため手術が必要になる場合もあります3)。さまざまなものが原因になりますが、その1つに、妊娠20週頃までの妊婦さんが風疹ウイルスに感染した際、赤ちゃんに生じることがある「先天性風疹症候群」があります4)。この症候群では白内障のほか、難聴や心疾患を伴うことがあります5)。
その名の通り、加齢に伴って生じる白内障です。白内障の中で最も頻度が高いものになります。
目以外の体の病気や使用している薬物に伴って生じる白内障です。白内障を生じることがある体の病気には非常に多くのものがあり、糖尿病、アトピー性皮膚炎はその一例です。白内障を生じることがある薬物としては、痛風や精神疾患の治療薬、ステロイドなどが挙げられます。また、放射線や紫外線、電撃(電流に触れること)、赤外線といった物理的な刺激も白内障の原因になります2)。
目の他の病気に伴って生じる白内障です。白内障を合併することのある目の病気は多くありますが、ぶどう膜炎・ 虹彩毛様体炎(いずれも目の中の炎症)、網膜色素変性症、緑内障などが挙げられます。
白内障の手術では、濁った水晶体を除去し、再び「光が通る」状態にします。同時に、白内障が果たしていた「光を集める」役割を補完する眼内レンズを入れる必要があります。この眼内レンズを目の中で支えるものとして、水晶体を包んでいた薄皮のような袋(水晶体嚢:すいしょうたいのう)を残します。この水晶体嚢は手術の時は透明なのですが、術後、時間とともに濁ることがあり、これを後発白内障と呼びます。
白内障になると、以下のような症状が現れます。水晶体の濁り方によって症状が異なることがあり、以下の全ての症状を全ての方が感じるわけではありません。
水晶体が濁ると目の中に入ってきた光が散乱してまぶしく見えたり、ものがかすんで見えたりします。
水晶体の変化に伴い、水晶体のもつ光を曲げる力が変化することがあります。これに伴い、目の度数が変化し、それまで見えていた眼鏡やコンタクトレンズでは見えにくくなることがあります。
片目で見たときに、ものがいくつにも見えることをいいます。眼鏡やコンタクトレンズでは矯正できません。
いよいよ水晶体の濁りが強くなると、水晶体が「光を通す」ことができなくなるため、視力が低下します。
白内障はいくつかの検査のもとに診断されます。ここでは一般的に行われる検査についてご紹介します。
目の度数を調べる検査です。近視・ 遠視・ 乱視の有無や程度がわかります。
近視・ 遠視・ 乱視などがある場合にはそれらを矯正した状態で視力検査を行い、「ものを見る」力がどの程度あるのかを調べます。
目の圧(眼圧)を測る検査です。
目に光を当てながら、顕微鏡で目の表面や内部を拡大して診察する検査です。
目の奥にある網膜や視神経の状態を確認する検査です。
1と2は、目の機能を確認する検査です。4で白内障の確認をしますが、ほかの病気がないかどうかも同時に確認します。3と5は、患者さんの自覚症状をもたらしている病気が白内障以外にないかどうか、確認する検査になります。
「濁った水晶体を再び透明にする」目薬は現在存在しませんが、白内障の進行を抑制する目薬としてピレノキシンや、グルタチオンが承認・ 処方されています。ピレノキシンは白内障の原因となる物質が水晶体に作用するのを阻害します。グルタチオンには抗酸化作用があります。
白内障が進行して生活に支障を来たすようになった場合には、手術が必要になります。濁ってしまった水晶体を取り除き、代わりに透明な眼内レンズを水晶体があった場所に入れるという手術になります。濁った水晶体を再び透明にしているわけではありませんが、目の、「光を通す」、という役割はこの手術で取り戻すことができます。また、水晶体は目の中で「光を集める」、という役割も果たしていましたが、手術後は眼内レンズがその役割を果たしていくことになります。
水晶体は、「調節」においても欠かすことのできない役割を果たしていますが、白内障の多くを占める加齢白内障では、この手術が必要になる頃にはすでに水晶体は硬くなっており、調節の役割は果たせなくなっています。手術で入れる眼内レンズも調節の機能自体は持っていません。その結果、通常の眼内レンズで遠くが見えるようにすると近くは老眼鏡を使わないと見えないという状態になります。しかし、1つのレンズに多くの度数をもつ多焦点眼内レンズは、老眼鏡の使用頻度を大きく下げることができるレンズであり、白内障手術に付加価値を提供しています。
白内障の中で最も多い加齢白内障は加齢に伴って起こりますが、白内障の原因になるものとして紫外線や喫煙も挙げられます6)。例えば、紫外線被曝量が多い地域では、白内障の発症年齢が若いという疫学調査結果があります7)。また、喫煙習慣がある人は白内障を発症しやすいことが報告されており、白内障予防のために紫外線対策をしたり、禁煙をしたりすることが推奨されています6)。
白内障の原因となりえる糖尿病などの病気がある場合には、その病気をしっかり治療することも、白内障の予防になります。
白内障予防効果のあるものとしては、海外の疫学調査においてルテインやゼアキサンチンといった抗酸化物質が報告されています8)。
白内障が進行すると、次第にものが見えなくなっていきます。ものがよく見えないと日常生活の中で危険に遭遇しやすくなります。例えば、白内障の人は交通事故に遭うリスクが2.5倍高くなることが知られています6)。また、両眼ともに白内障がある人は、転倒のリスクが1.8倍高まるとの報告もあります6)。
白内障が進んでくると、水晶体が厚みを増すことにより眼圧が上昇するなど、目の他の部分への影響が生じることもありますので、やはり、見え方が変だなと思ったら早めに眼科を受診するのが正解といえるでしょう。
白内障は、比較的多くの方が経験する病気の1つです。初期には症状がはっきりとせず、何となく見にくい・ まぶしいけどどうしてかな、という程度である場合もあります。進行すると眼鏡やコンタクトレンズを使用してもよく見えない、という状態になってきます。最終的な治療は手術になりますが、手術に付加価値を提供できる多焦点眼内レンズも使用されるようになっています。白内障と診断されたら放置せず、定期的に眼科を受診して病状を把握するようにしましょう。
<参考資料>
1) World Health Organization:Blindness and vision impairment (10 August 2023)
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/blindness-and-visual-impairment
2) 大鹿 哲郎 他 編:「眼科学」第3版 文光堂, 2020
3) 木下 茂 他 編:「標準眼科学」 第12版 医学書院, 2013
4) 厚生労働省:風しんについて
5) NID国立感染症研究所:先天性風疹症候群とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/429-crs-intro.html
6) 日本白内障学会:一般の方へ
http://www.jscr.net/ippan/index.html
7) 初坂 奈津子:日本白内障学会誌 29(1):40-44, 2017
8) Moeller SM, et al.:Arch Ophthalmol 126(3):354-364, 2008