角膜びらんとは、角膜の表面が剥がれてしまっている状態のことです。角膜は、中央の厚みが0.5 mm程度、周辺[白目(結膜)側]の厚みが1.0mmほどの、薄い透明な膜です。顕微鏡などで細かく見ると表面から順に、上皮層、実質層、内皮層の3つに分けられます。このうち、上皮層の全層が剝がれてしまっている状態が「角膜びらん」です。
角膜びらんとは?症状・ 原因・ 治療方法をご紹介
角膜びらんは、どのような原因で起こるのでしょうか? 起こってしまったときには、どのように対処すれば良いのでしょうか?ここでは、角膜びらんという病気について、詳しく解説します。
作成日:2023/1/18 更新日:2024/11/13
角膜びらんとは
角膜びらんと角膜潰瘍の違い
角膜びらんと似たような症状が現れる病気に「角膜潰瘍」というものがあります。これら2つは、「異常が角膜のどの深さにまで達しているか」によって区別されています。
角膜びらんは、前述の通り、角膜「上皮層」の全層が剥がれてしまった状態のことです。一方、角膜潰瘍は、角膜の異常が上皮だけにとどまらず「実質」にまで達している状態を指します。つまり、角膜潰瘍のほうが、角膜びらんよりも深いところまで障害が及んでいるということになります。
角膜びらんの症状
角膜びらんが生じると、目の痛みや充血、ゴロゴロ感、まぶしさを感じる、涙が止まらないなどの症状が見られます。一部の角膜びらんでは、いったん治った後で再発するものもあります。
角膜びらんの原因
角膜びらんは、原因によって次の3つに大きく分けることができます。眼科では、適切な治療を行うため、まず原因を明らかにします。
- 外傷性:コンタクトレンズの不適切な使用や、目に入った異物などにより生じる角膜びらんです。特に、コンタクトレンズ装用者では、コンタクトレンズをつけたまま眠ったり、レンズケアが不適切だったりすると、角膜に小さい傷ができ、角膜びらんにまで発展してしまうことがあります。
- 感染性:ウイルスや細菌といった病原体の感染によって生じる角膜びらんです。
- その他の原因によるもの:ドライアイや神経麻痺、糖尿病、角膜ジストロフィ(遺伝性の角膜の病気)1) など、さまざまな病気が原因で角膜びらんが生じることがあります。
眼科での検査
眼科では細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)という機器を用いて、角膜の状態を観察します。これは、目に細い帯状の光を当てて、主に眼球の前方部分を詳しく観察する機器で、「顕微鏡」という名の通り拡大して観察することができます。この検査により、びらんの程度や状態がわかります。また、角膜の傷を観察しやすくするために、フルオレセインという蛍光試薬を点眼してから細隙灯顕微鏡で観察する場合もあります。
ウイルスや細菌などの感染が疑われた場合には、角膜びらんの部分に病原体がいないか検査することもあります。
また、角膜びらんは、糖尿病や角膜ジストロフィといったさまざまな病気が原因で起こる場合もあるため、そのような病気を調べるための検査を行うこともあります。
角膜びらんの治療方法
角膜びらんは、角膜の表面が剥がれてしまっている状態です。この状態の時には細菌やウイルスといった病原体への抵抗力がとても弱くなっているので、治るまでの間は特に感染に気をつける必要があります。感染性の角膜びらんでも、2次感染(角膜びらんの原因となった病原体とは異なる病原体が追加で感染すること)に注意が必要です。また、目が乾燥しないようにすることも大切です。原因に応じて、次のような治療を行います。
- 目の表面に異物がある場合:異物を除去した上で、角膜びらんに対する治療を行います。
- 感染が原因の場合:病原体に効果をもつ目薬や眼軟膏、内服薬などで治療します。
- その他の病気が原因の場合:感染予防のために抗菌成分を含む目薬を用い、それぞれの原因に応じた治療薬を用います。糖尿病などが原因で角膜びらんが生じている場合には、原因となっている病気の治療を専門の科に依頼しつつ、角膜びらんに対する治療を行います。
角膜びらんは再発する可能性がある
角膜びらんの一部に、いったん治った後に再発を繰り返すものがあり、「再発性角膜上皮びらん」と呼ばれています。 再発性角膜上皮びらんの原因はよくわかっていませんが、何らかの原因で剥がれてしまった上皮層の治りが強固ではないために、再発してしまうと考えられています。
再発性角膜上皮びらんの症状として特徴的なのは、起床時に生じる激しい目の痛みや強い異物感です。就寝中、涙の分泌量が低下した状態が続いたところへ、目を開ける時に黒目の表面を滑り上がっていく上まぶたから機械的な刺激を受けることで、強固には治っていなかった上皮が剥がれ、このような強い症状(発作)が生じると考えられています。
角膜びらんの予防方法
角膜びらんを予防するには、原因となる状況を避けることが大切です。
例えばコンタクトレンズをお使いの方であれば、コンタクトレンズの使用方法やケアについて、今一度確認してみましょう。定められた装用時間・ 装用方法・ 使用期間・ ケア方法を守っていますか?レンズケースは清潔に保ち、定期的に交換していますか?眼科での定期検診は受けていますか?自覚症状がなくても角膜に小さい傷がついていることもありますので、眼科医の指示に従って必ず定期検診は受けるようにしましょう。
角膜びらんにつながることがある「ドライアイ」を予防することも大切です。スマートフォンやパソコンを使用する際には、定期的に目を休ませ、意識的にまばたきをしましょう。また、エアコンは目を乾燥させてしまうことがあるため、風が直接目に当たらないようにしたり、湿度を適切に管理したりして使用しましょう。
角膜の異常は、自分で気づくことが難しい場合もあります。病気を早い段階で発見・ 治療するために、定期的に眼科で検査を受けましょう。
まとめ
角膜びらんは、角膜の上皮が剥がれてしまった状態を指します。コンタクトレンズを使っていなくても起こることもありますが、コンタクトレンズをお使いの方は、コンタクトレンズの適正使用と定期検診を受けることを心がけましょう。
<参考資料>
1) 相馬 剛至 他:あたらしい眼科 23(3):333-337, 2006