コンタクトレンズの含水率とは?高含水・低含水の違いと選び方
作成日:2022/12/14 更新日:2024/11/13
コンタクトレンズの含水率とは?1),2)
コンタクトレンズの含水率とは、ソフトコンタクトレンズに含まれる水分の割合を表した数値です。この数値が高いほど水分を多く含んでいることになります。含水率が50%以上のものを「高含水コンタクトレンズ」、50%未満のものを「低含水コンタクトレンズ」といいます。
コンタクトレンズに使用されている素材には、さまざまな種類があり、大きくハイドロゲル素材とシリコーンハイドロゲル素材に分けられます。一般的にはハイドロゲル素材は高含水コンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲル素材は低含水コンタクトレンズになります。
なお、含水率はソフトコンタクトレンズにしか存在しない概念で、レンズの素材に水分が含まれていないハードコンタクトレンズには、含水率の概念はありません。
高含水と低含水のコンタクトレンズの違い1)~4)
それでは、高含水コンタクトレンズと低含水コンタクトレンズでは何が違うのでしょう。含水率の違いは、下記のように、コンタクトレンズの酸素透過率やつけ心地などに影響を与えると考えられます。
酸素透過率の違い
コンタクトレンズの含水率は、酸素の通りやすさ(酸素透過性)と深い関係があります。
一般的なハイドロゲルレンズでは、使用されている素材そのものの特性としては、含水率が高いほど酸素の透過性が高くなります。つまり、酸素透過係数(Dk値)が高くなります。また、一般的なシリコーンハイドロゲルレンズでは、前述のハイドロゲルレンズの場合とは逆に、含水率が低いほど酸素の透過性が高くなります。それらの理由は後述しています。
しかし、これはあくまでもコンタクトレンズの素材自体の話であって、コンタクトレンズの酸素透過性ではありません。実際のコンタクトレンズの酸素透過性は、コンタクトレンズの厚み(t)を考慮した「酸素透過率(Dk/t値)」で示され、この値が高いほど酸素が通りやすいことを意味しています。つまり、コンタクトレンズの厚みが同じであれば、一般的なハイドロゲルレンズでは高含水レンズの方が、低含水レンズよりも酸素透過性が高く、一般的なシリコーンハイドロゲルレンズでは、低含水レンズの方が高含水レンズよりも酸素透過性が高いということになります。
角膜(黒目)には血管が存在しないので、涙に溶け込んだ大気中の酸素を取り込んで呼吸していますが、コンタクトレンズを角膜の上にのせると、裸眼時に比べて酸素を取り込みにくくなります。このため、目の健康を保つには、角膜に十分な酸素を行きわたらせることのできる、酸素透過率の高いコンタクトレンズを使用することが好ましいと考えられます。
つけ心地の違い
コンタクトレンズの含水率の違いは、つけ心地を左右する1つの要因であると考えられています。含水率が高いコンタクトレンズほど、水分を多く含んで柔らかい傾向にあるので、つけ心地が良くなる事が期待できます。ところがその反面、含水率が高いコンタクトレンズほどレンズが乾きやすく、目の乾燥感やゴロゴロ感の原因になり得ます。少し意外な感じがしますが、実は、高含水レンズの方が乾きに弱いのです。それは、ソフトコンタクトレンズを長時間装用していると、レンズの表面から水分が蒸発してしまうためです。特に、この水分の蒸発量は、高含水レンズの方が多い傾向にあるため、低含水レンズよりも、高含水レンズの方が乾いてしまうのです。一方で、レンズからの水分蒸発を抑えるテクノロジーが各社で採用されています。また、フィッティング(目の上でのコンタクトレンズの動き具合)など、ほかの要素もつけ心地には影響します。したがって、つけ心地の良し悪しは単純に含水率の数値だけでは判断できません。
高含水と低含水のどちらがいいの?2),3)
結局、高含水コンタクトレンズと低含水コンタクトレンズではどちらがいいのでしょう。
含水率が高い方がいいのか低い方がいいのかについては、素材によって考え方が異なります。
ハイドロゲル素材の場合、レンズに含まれる水を通して酸素が運ばれます。このため、素材に含まれる水の量、つまり含水率が酸素透過性に影響します。含水率が高いほど酸素をよく通すだけでなく、柔らかいレンズとなり、一般的には装用感※も良くなる傾向にありますが、水のDk値*が80ですので、ハイドロゲル素材では理論上Dk値*80を超える製品を作ることができません。
一方、シリコーンとハイドロゲルの複合素材であるシリコーンハイドロゲル素材の場合、シリコーン素材そのものが酸素を運ぶことができるため、シリコーン素材の量が多く、ハイドロゲル素材の量が少ないほど、つまり含水率が低いほど酸素をよく通すレンズになります。
シリコーンハイドロゲル素材が開発されるまでのハイドロゲル素材では、酸素の主な供給ルートは「水」でした。このため、より多くの酸素を目に通すことができるように、含水率が高いコンタクトレンズが開発されてきました。その後、シリコーンハイドロゲル素材が登場し、水よりも酸素を通すことができるので、むしろシリコーン素材の割合を増やし、水の割合を下げた低含水の方が、多くの酸素を目に通すことができるようになりました。
しかし、シリコーンはハイドロゲルよりも硬い素材ですので、その割合を増やしすぎてしまうとレンズが硬くなりすぎてしまいます。一方で、酸素透過率が高ければ高いほど、角膜に届く酸素の量が増えるわけではありません。つまり、レンズを硬くしてつけ心地を犠牲にして酸素透過率を向上させたとしても、角膜にはある一定の量の酸素以上は届かないのです。酸素透過率は高ければ高いほど良い、わけではないことを理解しておきましょう。
このように、ハイドロゲルレンズの場合、含水率は酸素透過性に直結しますが、シリコーンハイドロゲルではそれが当てはまりません。つけ心地は含水率だけで決まるものでもなく、レンズの素材や規格、フィッティング等の様々な要因が複雑に関係しています。もしお使いのコンタクトレンズについて気になることがあれば、眼科医に相談するようにしましょう。
アキュビュー® 製品の含水率
それでは、アキュビューⓇ 製品の含水率はどれくらいなのでしょう。製品名、レンズの素材、含水率のほか、参考までに酸素透過係数(Dk値)、酸素透過率(Dk/t値)、ソフトコンタクトレンズ分類を下記に示します。
製品の特徴やその違いについてはそれぞれの製品詳細ページをご確認ください。
製品名 | 材質 | Dk値 | Dk/t値 | 含水率 (%) | ソフトコンタクトレンズ分類 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ オアシスⓇ MAX | シリコーンハイドロゲル | 103 *2 | 121 *3 | 38 | Ⅰ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ オアシスⓇ MAX マルチフォーカル(遠近両用) | シリコーンハイドロゲル | 103 *2 | 147 *3 | 38 | Ⅰ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ オアシスⓇ | シリコーンハイドロゲル | 103 *2 | 121 *3 | 38 | Ⅰ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ オアシスⓇ 乱視用 | シリコーンハイドロゲル | 103 *2 | 129 *3 | 38 | Ⅰ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ トゥルーアイⓇ | シリコーンハイドロゲル | 100 *2 | 118 *3 | 46 | Ⅰ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ モイストⓇ | ハイドロゲル | 28.0 *4 | 33.3 *1 | 58 | Ⅳ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ モイストⓇ 乱視用 | ハイドロゲル | 28.0 *4 | 31.1 *1 | 58 | Ⅳ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ モイストⓇ マルチフォーカル(遠近両用) | ハイドロゲル | 28.0 *4 | 33.3 *1 | 58 | Ⅳ |
1dayタイプ | ワンデー アキュビューⓇ ディファインⓇ モイストⓇ | ハイドロゲル | 28.0 *4 | 33.3 *1 | 58 | Ⅳ |
2weekタイプ | アキュビューⓇ オアシスⓇ | シリコーンハイドロゲル | 103 *2 | 147 *3 | 38 | Ⅰ |
2weekタイプ | アキュビューⓇ オアシスⓇ 乱視用 | シリコーンハイドロゲル | 103 *2 | 129 *3 | 38 | Ⅰ |
2weekタイプ | アキュビューⓇ オアシスⓇ マルチフォーカル | シリコーンハイドロゲル | 103 *2 | 147 *3 | 38 | Ⅰ |
2weekタイプ | 2ウイーク アキュビューⓇ | ハイドロゲル | 28.0 *4 | 33.3 *1 | 58 | Ⅳ |
各製品添付文書より作成
まとめ
コンタクトレンズの含水率とは、ソフトコンタクトレンズに含まれる水分の割合を表した数値です。つけ心地や乾燥感などにも影響する可能性もあります。また、コンタクトレンズは製品ごとに特長が異なり、製品スペックも違うため、含水率だけで自分の目に合うかどうかは判断できません。眼科医の指示や処方に沿って、適切なコンタクトレンズを使用するようにしましょう。
※ 装用感には個人差があります。
* :×10-11(cm2/sec)・(mLO₂/mL・mmHg)
*1:×10-9 (cm・mLO₂ /sec・mL・mmHg) 測定条件35℃ (-3.00Dの場合)
*2:×10-11(cm2/sec)・(mLO₂/mL・mmHg) 測定条件35℃ Polarographic method, boundary and edge corrected.
*3:×10-9 (cm・mLO₂ /sec・mL・mmHg) 測定条件35℃ (-3.00Dの場合) Polarographic method, boundary and edge corrected.
*4:×10-11(cm2/sec)・(mLO₂/mL・mmHg) 測定条件35℃
<参考文献>
1) 坪田 一男 他 編:「眼科プラクティス 27. 標準コンタクトレンズ診療」 第1版 文光堂, 2009
2) 植田 喜一 編:「眼科スタッフのためのCL(コンタクトレンズ)で困ったときに開く本」 第1版 メディカ出版, 2009
3) 糸井 素純:あたらしい眼科 24(6):697-703, 2007
4) 糸井 素純:あたらしい眼科 25(11):1517-1518, 2008