ソフトコンタクトレンズには適切なケアのもとに再装用可能なものと、そもそも再装用不可能なものがあり、装用サイクルによって1dayタイプ(1日使い捨て)、2weekタイプ(2週間頻回交換)などに分けられます。このうち、1dayタイプや医師の指導のもとで連続装用をしている場合は、レンズケアは必要ありません。しかし、再装用し、定期的にレンズを交換する2weekタイプなどでは、レンズを外した後、次にそのレンズを装用するまでに、微生物に汚染されることなく、レンズを清潔に保管することが重要です。そのためにも、ソフトコンタクトレンズ専用のケア剤で、正しい手入れを行うことが必要です。
ソフトコンタクトレンズを洗浄・ 保存するためのケア剤とは?消毒剤の種類や正しい使い方
作成日:2024/11/13 更新日:2024/11/13
レンズケアが必要なソフトコンタクトレンズの種類は?1)~3)
ソフトコンタクトレンズの分類とレンズケアの必要性
装用方法 | 装用サイクル | レンズケアの必要性 | |
---|---|---|---|
1dayタイプ(1日使い捨て) | 終日装用*1 | 1日 | なし |
1weekタイプ(1週間連続装用) | 連続装用*2 | 最長1週間 | なし |
2weekタイプ(2週間頻回交換) | 終日装用 | 最長2週間 | あり |
1monthタイプ(1ヵ月定期交換) | 終日装用 | 最長1ヵ月 | あり |
従来型*3 | 終日装用 | 劣化するまで | あり |
*1:起きている間に装用して、寝るときには外すコンタクトレンズ
*2:眼科医の許可する期間内であれば、眠っている間も装用を続けることができるコンタクトレンズ
*3:レンズケアを行いながら長期間使用するコンタクトレンズ
1)~3) より作成
ソフトコンタクトレンズ用消毒剤の種類
ソフトコンタクトレンズ用消毒剤は、主に次の3種類に分けられます3),4)。洗浄、すすぎ、消毒、保存というレンズケアの過程全てに使えるMPS、MPSより消毒効果が高いものの中和が必要な「過酸化水素製剤」、ヨウ素が有効成分でオレンジ色をしている「ポビドンヨード製剤」です。ソフトコンタクトレンズ用消毒剤を購入する際には、自分のコンタクトレンズに対応したタイプのものかどうか、きちんと確認してから購入するようにしましょう。
また近年、MPDS(マルチパーパスディスインフェクティングソリューション)やプレミアムMPDSと呼ばれるより消毒効果の高いMPSが登場し、海外ではMPDSへの世代交代が進んでいます5)。特に米国では、既にMPDS がMPS市場の8割以上を占めているようです5)。
ソフトコンタクトレンズ用消毒剤の正しい使い方
MPS、過酸化水素製剤、ポビドンヨード製剤を使った、ソフトコンタクトレンズの基本的なケア方法をご紹介します。ただし製品ごとに、使用滴数、こすり洗いの回数・ 時間、放置時間などが異なりますので、詳細は各製品添付文書(取扱説明書)でご確認の上お使いください。
MPSを使用したケア方法2)~4),6)
1剤で洗浄、すすぎ、消毒、保存というレンズケアの全ての過程を行うことができるMPSの基本的な使い方は下記のとおりです。
1.手を洗った後コンタクトレンズを外し、手のひらにのせ、MPSを数滴つける
2.レンズの両面を各々、20~30回指で一定方向に軽くこすりながら洗う
3.洗ったレンズの両面をMPSで十分にすすぐ
4.レンズケースにMPSを満たし、その中にレンズを完全に浸し、ケースのふたをしっかり締める(左右を間違えないよう注意)
5.一定時間放置する
※ :使用滴数、こすり洗いの回数・ 時間、すすぎ時間、放置時間等は製品により若干異なります。詳細は各製品添付文書(取扱説明書)でご確認ください。
過酸化水素製剤を使用したケア方法2)~4),6)
MPSより消毒効果が高いものの中和が必要な、過酸化水素製剤の基本的な使い方は下記のとおりです。
1.手を洗った後コンタクトレンズを外し、専用ケースのバスケットにセットする(左右を間違えないよう注意)
2.過酸化水素製剤(消毒剤)を専用ケースのガイドラインまで入れ、中和剤を入れる
3.6時間以上そのまま放置して過酸化水素を中和する
4.製品によってはレンズ装用の際、別売のすすぎ液や保存液でよくすすぐ
※ :コンタクトレンズを入れるカップに中和用ディスクが固定されていて、別途中和剤を入れる必要がないタイプもあり、中和方法は製品により異なります。詳細は各製品添付文書(取扱説明書)でご確認ください。
過酸化水素製剤は、中和が不完全だと眼障害を起こすことがあるので、使用方法・ 放置時間を守ることが重要です。消毒・ 中和後のレンズは、ケースのふたを開けなければそのまま保存することができます。ただし、保存開始から24時間を経過した場合、装用前にもう一度消毒・ 中和が必要な製品や、消毒・ 中和後の専用ケース内にレンズを7日以上保存しないよう使用上の注意に記載されている製品もあります。また、カラーコンタクトレンズに使用できない製品もあるため、使用する製品の添付文書(取扱説明書)をよく読み、正確に理解した上で使用するようにしましょう。
ポビドンヨード製剤を使用したケア方法2)~4),6)
ソフトコンタクトレンズ用ケア剤の中で、最も消毒効果の高いポビドンヨード製剤の基本的な使い方は下記のとおりです。
1.手を洗った後コンタクトコンタクトレンズを外し、専用レンズケースにレンズをセットする
2.専用レンズケースに消毒・ 中和錠と溶解・ すすぎ液をケースの線まで入れる
3.専用レンズケースのふたを閉め、4時間以上放置する(中和されるとオレンジ色の液が無色に変わる)
4.新しい溶解・ すすぎ液で、レンズを手のひらでよくすすぎ装用する
※ :製品により使用方法等が若干異なりますので、詳細は各製品添付文書(取扱説明書)でご確認ください。
消毒・ 中和後のレンズは、ケースのふたを開けなければそのまま1週間まで保存することができます。1週間以上保存する場合は、1週間ごとに再度消毒・ 中和を行う必要があります。また、24時間以上保存したレンズを装用する場合には、装用前にもう一度消毒・ 中和を行ってください。
ポビドンヨード製剤は、ヨウ素にアレルギーがある方や、甲状腺に関連した病気を抱えている方は使用することができないのでご注意ください。
MPSの効果とMPDS、プレミアムMPDSとは4)~7)
MPSは、洗浄、すすぎ、消毒、保存の4ステップを1剤で行うことができる便利なケア剤である反面、消毒効果が過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤より劣るとされてきました。こうした中、近年登場したのがMPDSと呼ばれているケア剤です。
ソフトコンタクトレンズ用消毒剤の消毒効果は、国際標準化機構(ISO)の定めた試験方法により評価されます。この試験法では細菌3種、真菌2種を対象とし、消毒液自体の効果を見るスタンドアローン試験とケア方法を含めて消毒システムとしての評価を行うレジメン試験があります。スタンドアローン試験に合格したソフトコンタクトレンズ用消毒剤は効果ありと判断され、レジメン試験を行わなくても認可されます。また、スタンドアローン試験に不合格であっても、レジメン試験に合格すれば、MPSとして認可されます。MPDSというのは、このスタンドアローン試験に合格し認可されたMPSのことです。
また、多くのMPSやMPDSに配合されている消毒成分は1種類のみですが、消毒成分が2種類配合されたMPDSを、プレミアムMPDSと呼ぶようになってきています。
海外では、MPSからより高い消毒効果と安全性を示すMPDSやプレミアムMPDSへの世代交代が進んでいます5)。日本でも最近、複数の消毒成分を含んだプレミアムMPDSが登場し始めています。
ソフトコンタクトレンズ用ケア剤に関するその他の注意点
ソフトコンタクトレンズ用のケア剤(洗浄液、保存液、洗浄・ 保存液、消毒剤など)を使い切ってしまった場合、代わりに水道水を使用してはいけません。水道水は滅菌されていないので、感染症の原因となってしまう場合があります。特に、洗面所などの水回りには、重症角膜感染症を引き起こす緑膿菌やアカントアメーバーなどの環境菌が存在しています。ソフトコンタクトレンズは、水道水が原因で変形してしまうこともあるので注意しましょう。
また、ケア剤のボトルの先が、指先やレンズに触れると、雑菌などにより液が汚染される恐れがあります。汚染を防ぐため、ボトルの先には触れないように注意してください。別の容器に詰め替えて使用するのは厳禁です。
レンズケースのケアも重要
コンタクトレンズだけでなく、レンズケースのケアも重要です。レンズケースの中に使用済みのケア剤を入れたままにしていると、雑菌などが増殖することがあります。レンズが汚染されて、さまざまな目のトラブルにつながる可能性があるので、レンズを取り出したらレンズケースをしっかりと洗い、ふたを開けたまま清潔な場所で自然乾燥させましょう。また、レンズケースは定期的に新しいものと交換するようにしましょう。
コンタクトレンズ用のケア剤は機内へ持ち込み可能?
出張や旅行のときも、コンタクトレンズ用のケア剤は、忘れずに持っていきましょう。飛行機を利用する場合、ケア剤を機内に持ち込むことはできますが、国内線と国際線では持ち込み方法が異なります。また、国際線は航空会社によって、また渡航先の国によって独自の規制を定めている場合がありますので、詳しくは利用する航空会社にご確認ください。
ここでは、日本を発着する航空機で採用されている、一般的な基準についてご紹介します。
国内線の場合8)~10)
国内線の場合、コンタクトレンズ用のケア剤は「非放射性の化粧品類あるいは医薬品・ 医薬部外品」として取り扱われますので、機内に持ち込めるのは、「1容器あたり500mLまたは500g以下、1人あたり合計で2Lまたは2kg以下」と定められています。(2024年9月現在)
国土交通省ウエブサイト:機内持込み・ お預け手荷物における代表例
https://www.mlit.go.jp/common/001425421.pdf
国際線の場合10)~12)
本来、日本国内を出発する全ての国際線では、客室内への液体物の持ち込みが制限されています。ただし、この液体物にはいくつか例外扱いされるものがあり、コンタクトレンズ用のケア剤は、医薬品ではないものの、例外的に医薬品類の基準で取り扱われます11)。このため、機内に持ち込む場合には、下記でご紹介するように、透明なプラスチック製の袋に入れる必要はありませんが、持ち込める量は「機内で必要となる量のみ」という制限があります。また、保安検査員に、コンタクトレンズのケア剤であることを証明するために、パッケージや説明書などの提示を求められることがあるため注意が必要です。
なお、コンタクトレンズのケア剤は、化粧品や乳液などのように、「液体物」として持ち込むことも可能です。ただし、その場合には、ケア剤を100 mL(g)以下の容器に入れ、ジッパーが付いた容量1 L以下の透明なビニール袋にまとめて入れる必要があります(サイズの目安:縦20 cm以下×横20 cm以下、下図参照)。この袋を1人につき1つのみ持ち込むことができ、この場合には検査員への申告は不要です。(2024年9月現在)
まとめ
衛生的にソフトコンタクトレンズを装用するためには、適切なケア剤、特に消毒剤の使用が大切です。どの消毒剤を使用するかは、眼科医に相談し、指示されたものを使用するようにしましょう。
<参考資料>
1) 一般社団法人 日本コンタクトレンズ協会:コンタクトレンズとは コンタクトレンズについて
https://www.jcla.gr.jp/contactlens/index.html
2) 前田 直之 他 編:「新篇眼科プラクティス 9 必読! コンタクトレンズ診療」 第1版 文光堂, 2023
3) 日本コンタクトレンズ学会:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第2版)
http://www.clgakkai.jp/pdffiles/contact_lens2.pdf
4) 一般社団法人 日本コンタクトレンズ協会:コンタクトレンズとは ケア用品について
https://www.jcla.gr.jp/contactlens/care.html
5) 第64回日本コンタクトレンズ学会総会 外園 千恵先生発表 コンタクトレンズ基礎講座2, 2022
6) 各社製品添付文書(取扱説明書)
7) 第64回日本コンタクトレンズ学会総会 小玉 裕司 先生発表 イブニングセミナー3, 2022
8) 国土交通省:機内持込・ お預け手荷物における危険物について 機内持込み・ お預け手荷物における危険物の代表例一覧表
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr2_000007.html
9) JAL:国内線 制限のあるお手荷物
https://www.jal.co.jp/jp/ja/dom/baggage/limit/
10) 政府広報オンライン:飛行機に持ち込めないもの お出かけ前に確認を!
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201412/4.html
11) 国土交通省:国際線の航空機客室内への液体物持込制限について
https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000006.html
12) JAL:国際線 制限のあるお手荷物